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2012年01月27日

僕は友達が少ない 1 / 平坂読

★★★★☆
「いない」のではなく「少ない」のだな

小生が初めて手に取ったライトノベル。
ひとつ前に読んだのが武者小路実篤『友情』(新潮文庫版)だったこともあり、やたら括弧を使った一人称の説明が多少気になったものの、一気に読み進めることができました。
大人になってしまうと、ある程度コミュニケーションに関する耐性がついてきて、友達が少ないことに別にコンプレックスやそれに類するものを抱かぬようにはなってくるが、特に中高においてはハリボテな友人関係だとしても、表面を取り繕うことのほうが大事だったりするという現実を、本作はしっかりと昇華させている。 また、アニメーション化されていない演劇のエピソードでふと思ったのだが、夜空と星奈の掛け合いや行動が、アダムス・ファミリー2において、サマーキャンプに厄介払いされたウェンズデーとパグズリーが一日中ディズニー映画のビデオを見せられる『拷問』を受けたり、ネイティヴ・アメリカンに扮してキャンプを急襲するくだりを彷彿とさせる。

本作の対象者は高校時代、朝学校に来て夕方に下校するまで、一言も発したことがない状態が一週間続いた人向けですな。
あ、これは本作で描かれているエピソードではありません。 小生の実話ですけど何か問題でも?

2012年01月16日

よつばと! 4 / あずまきよひこ

★★★★★
バドミントン、ニジマス釣り、失恋、ラジオ体操、新聞そしてつくつくぼうし

たたいてかぶってじゃんけんポンでとーちゃんにパーを要求したり、白い絵の具を水で溶いた『牛乳』をとーちゃんに飲ませたり、無邪気に風花に失恋の傷口にニジマスよろしく塩をすり込ませるようなダメージを与えたりと、よつばの『小さい子どもあるある』を凝縮した感じもさることながら、よつばと真正面から本気で向き合う、大人になりきれていない男たち(とーちゃんとジャンボ)の姿が可笑しくて仕方が無い。彼らのライフスタイルは、ある意味羨ましくはあるが。

2012年01月15日

文は一行目から書かなくていい 検索、コピペ時代の文章術 / 藤原智美

★★★★★
他人が読みやすい文章とは何か?を分かりやすく説明している良書

著者自らの経験により会得した、いかにして他人が読みやすく、分かりやすい文章を書いていくか?というノウハウを、読み手である小生が、『おいおい、そこまで手の内を晒しても大丈夫なのかよ?』と余計な心配をしてしまうほど、余すことなく紹介している。

具体的には、視点をぶれさせない。また、視線が三人称(神視点)だと、本来ならば隠すべき部分が見えてしまい、しらけてしまうので避ける、人とは違う視点で物事を見てみる、安易に形容詞を使わず、共有しやすい物差しを使うなどといった表現方法を、筆者の経験や、他者の作品を具体例に挙げながら説明したり、モチベーションを維持しながら文章を継続して書き続けるための方法を指南している。
しかしながら、いわゆる『小説の書き方』の類に書かれているようなよくある小手先のテクニックではなく、会得するのには少し時間は掛かりそうだが、自身の血となり骨となるようなアドヴァイスが詰まっているので、小説家や記者でなくても、仕事で何かしらの文章を書く機会がある方は一読されることをお薦めする。

2012年01月13日

よつばと! 3 / あずまきよひこ

★★★★★
小さな花火、四葉のクローバー、お花、動物園、フィアット・パンダ(てつだからもえない)そして大きな花火

本巻に限らず、本作品のすべてのおはなしに共通していることだが、よつばがトライアルアンドエラーを繰り返しながらも、少しずつ知識を吸収していく姿が丁寧かつ巧妙に描かれており、一作を描きあげるのにかなりの時間を要していることが容易に想像できる。
肝心のおはなしについてですが、個人的には第17話「よつばとフラワー」でバスに乗ってしまうよつばに風香が驚いてしまうくだりで小生の幼少期、独りで西武バスに乗り込み、次のバス停で降り、パトカーの後部座席に乗って帰ったという自身のエピソード(もちろん実話)とオーバーラップし、思わず吹いてしまいました。

2011年11月04日

日常(七) / あらゐけいいち

★★★★★
自分自身のコモンセンスが問われる第七巻

メインの登場人物から離れたところで、サブキャラがフィーチャーされている『囲碁サッカー』の話の意図について分かってきたのは、これは一般的な日本人が持ち合わせていないコモンセンスに係る事柄に、一般的な日本人が接したらどうなるか?という、ある意味ひねくれたあるあるネタを作者は提示してみたかったのではなかろうか。と勝手に想像しております。現実世界の日本においては、おそらく「クリケット」「スヌーカー」「ペタンク」あたりが『囲碁サッカー』に相当するものなのかも知れません。実在はするけれど、それを知る者以外には皆目意味不明であるという点では共通していますから。そういう意味では『囲碁サッカー』の話は単なるエキセントリックなエピソードではなく、形は違えど誰にでも起こりうる話と言うことになります。下手に実在するマイナーな競技を取り上げて、ごく稀にいるその道のスペシャリストに揚げ足を取られるより、ゼロから新しいものを作ってしまった方がかえってやりやすいでしょうし、それどころか作者の中で、絶対に表に出さない裏設定がまだまだあるのやも知れませんね。

日常(六)オリジナルアニメーションDVD付き限定版 / あらゐけいいち

★★★★★
みおちゃんはPCを持ってないのでComic Studioはムダだなぁ…の第六巻

日常の88における、みおとゆっこが外国人に話しかけられてあわわあわわするシーンは、様々な漫画でよく見られるシーンではあるが、このテのエピソードの定番である英語をあえて使わず、タイ語とアラビア語を使ったのは、読者を確実に混乱させるためでしょう。英語だったら読める人なんていくらでもいますしね。
擬音語(例:フェっちゃんの「フロフロフロフロ」や桜井誠に放り出される泉の「ぺっ」など)・擬態語(例:「コツゼン」)・コンパリソン(例:中村先生のハートビート)の独特さと発想に感服。
これは勝手な推測ですが、日常の102においては、シュールなものに挑もうとして失敗するパターンを呈示することにより、本作がシュールな作品だと認識している読者に故意に混乱を与えているのではなかろうかと。
通常版の表紙がみさと、ウェボシー、フェっちゃんですが、特別版の表紙は猥雑な部屋で過ごすプリンセス・フェイ・スターラですので、気になる方は両方入手されては如何でしょう。
特別版のアニメーションは、原作には無いオリジナルストーリーが展開されています。これはTV版制作前のパイロット版だったのでしょうか。
あと、大工バーガーのBUTABARAバーガーはカロリー高そう。

2011年10月04日

それでも町は廻っている 9 / 石黒正数

★★★★★
自分のこととなるとなぁ…

相変わらず『心はロンリー気持ちは「…」』を彷彿とさせる小ネタやメタファーの数々は健在です。 小ネタが健在なだけに、目次と、実際の話数にズレが生じているのはネタなのか初版のみの誤植なのか全く見当がつきません(苦笑)。 それはともかく、以前からちょくちょく触れていた、「真田君に惚れられていることに気付かず、物事を間違った方向に捉えてしまう歩鳥」の姿が、この第9巻において強調されています。

第71話(歩く鳥)は、本作のエピソードを大きく「スラップスティックコメディ系」「探偵・SF(すこしふしぎ)系」「ハートウォーミング系」(勝手に命名しました)の3つに分けるとしたら、「ハートウォーミング系」のベストではなかろうかと。図らずとも、歩鳥は結果的に双葉のことを救うことになるのだが、歩鳥が感じる双葉との距離感と、双葉が感じる歩鳥への距離感のズレの描き方が秀逸。

第72話(嘘つきリッちゃんの亡霊)は、見切り発車になりがちな子どもの妄想が見事に一つのストーリーとして完成していく様子は、産みの苦しみで作者が苦悶する姿が想像できるほどに「巧い」おはなしです。

第73話(森秋 夜空に散る)は、初期の作品で見られた森秋先生と西先生の関係に踏み込んだおはなし。このフラグの回収も近いのでしょうか。

漫画は雑誌掲載時には読まず、単行本で読む派なので、アニメーション化当時、単行本未収録だった第70話(大人買い計画)の原作をようやく読むことができました。
嗚呼、第2期アニメーション化されねぇかなぁ...。

2011年08月14日

日常(五) / あらゐけいいち

★★★★★
唯一シュールなのは麻衣ちゃんだけだなぁ。の第五巻

日常(一)のレビューで、他のレビュアーの方がシュール、シュールと言っている中、本作はスラップスティックコメディであると申し上げましたが、繰り返し読んでいくに従い、正確には登場人物の中で、唯一、水上麻衣だけは、彼女が取る行動そのものを切り取った場合、その行動は実際にすることは可能だが、そこに行きつくまでの発想が常人離れしているという意味において『シュール』であり、彼女以外は『珍奇』であることが分かってきました。勿論スラップスティックコメディである事は変わらないのですが。

あまり多くを語るとネタバレになるので、ちょっとだけ触れますが、絵の隅々までを見ると、日常の74から77と79から81.5が同じ日の出来事として描かれているのが分かるので、どこがどう繋がっているのかを探してみるのも楽しいかもしれません。

2011年08月10日

よつばと! 2 / あずまきよひこ

★★★★★
写生、リベンジ、ケーキ、ルノー・カングー、目玉風船、そして沖縄

第1巻から読み始めて、少しずつ分かって来たことは、本作はいわゆる藤子・F・不二雄作品によくみられる、『まともな人たちの集団の中で、珍奇な主人公がさんざん周囲を引っ掻き回すだけ回す』という王道パターンなのだが、他の作品との決定的な違いは、『こどもに関するあるあるネタ』と『シュール』(ここでは、よつばが周囲の想像を超える行動を取る一方で、その行動や出来事そのものが現実に発生しうるという意味であり、表面上の不条理さを指したものではない。もし『シュール』の理解が間違っているなら許してね♪)の境界線上を行ったり来たりしている、絶妙なバランスで物語が進行しているということ。

よつばの、人見知りをまったくしないところや、早坂みうらに対し、姓名を逆転して名を名乗るところ、年齢の割に横文字のボキャブラリーがあるところなど、日本人が持つコモンセンスを持っていないところを提示することにより、よつばが日本人ではないか、日本人だけど日本人としてのアイデンティティや価値観を持たないまま成長したかのどちらかであることが暗喩されています。事実は回を追うにつれ分かってくるかと思いますので、今後の展開が楽しみです。

とは言っても、全貌が分かるのは一体何年先になるのやら。

2011年08月06日

日常(四) / あらゐけいいち

★★★★★
『みおちゃんのアレ』は\660也の第四巻

第三巻に続き、第一巻で『ふつう』と紹介されていた長野原みおの変人ぶりが増幅している第四巻。

スター○ックスでエスプレッソを頼もうとすると、おねえさんが小さいカップを見せながら「これくらいの大きさになりますけどよろしいですか?」と確認してくれるので、作中のように、ソロとドッピオで混乱を招く事は無いのでご安心を。研修中のおねえさんに当たってしまったゆっこの運が悪かったのでしょう。

ちなみに、長野原みおが頼んでいた「ホワイトチョコレートモカフラペチーノのグランデ、キャラメルソース、ヘーゼルナッツシロップ、チョコレートチップ、エクストラホイップのエスプレッソショット一杯」は、メニューには載っていませんが、実際に頼む事が出来ます。なかなかおいしかったですよ。値段は\660です。

あと、遊園地で財布を無くしたゆっこの『きれいなジャイアン』みたいな顔の表情は個人的にはツボ。

日常(三) / あらゐけいいち

★★★★★
力技で突破!?の第三巻

長野原みおの地獄突きやドラゴンスクリュー、「焼そばだよ!!!」の『顔芸』、朝礼でバタバタ倒れる先生と生徒、ステンドグラスと、全体的に本能のまま力技で推していってる印象。
ある意味に於いては酷すぎます。いい意味で。

2011年08月02日

日常(二) / あらゐけいいち

★★★★★
登場人物とパーソナリティが固まりつつある第二巻

第二巻においては、主要なキャラクターのパーソナリティ(ほとんどのキャラクターにおいて、まともそうに見えてどこかしらの部分が変わっている、或いは珍奇に見える、または珍奇そのもの)が下記のようにほぼ確定し、読み手が理解できるようなストーリーが展開されています。
● ゆっこ(元気だが頭が悪い)
● みお(一見普通の女子高生だが想像を超える行動を取る腐女子)
● 麻衣(物静かな優等生だが自由過ぎ)
● なの(ロボットであること以外は常識がある)
● はかせ(行動は8歳の年相応の子供そのものだがマッドサイエンティスト)
● 阪本(比較的まともで教養もあるがしゃべる黒猫)

特筆すべきは、激しく動き回るキャラクターが多くを占める本作において、『静』のキャラクターである水上麻衣のボケは、『静』とのギャップも相まって、神々しいほどのデタラメに強いインパクトを与えているところでしょうか。或る意味酷すぎます。良い意味で。

第一巻で、原作において東雲なのは最初から時定高校に在籍している設定だったのかと思いきや、第二巻にアニメーションでも展開されていた高校編入エピソードが時間を前後して盛り込まれていたのにはやられてしまいました。

2011年08月01日

よつばと! 1 / あずまきよひこ

★★★★★
なつのはじまり、引越、マツダ・スクラム、デパート、セミ、そして雨

以前から気になっていた本作の第1巻を入手。
単行本では明記されてはいないものの、それぞれのお話にはちゃんと日付けの設定があり、第1巻は7月下旬頃のお話であるとのこと。
腹を抱えて笑うようなお話ではありませんが、こどもならではの「大人の想像を越える動き」を、ギャグになるかならないかのギリギリのところで丁寧かつ巧く描いており、本書を読む前の自分の期待に応えてくれました。
一見すると何でもない毎日は、実は変化に富んだ毎日なんだよというメッセージが込められているのでしょう。
第2巻以降は『大人買い』します。

Helvetica Standard / あらゐけいいち

★★★★★
If I say like that!!

作者の別の作品である『日常』のアニメーション版の原作の一部(アニメーション版の『Helvetica Standard』だけではなく、本編のスキットにも流用されているものもあります)であり、かつ『日常』本作のスピンオフ的な作品です。
作品の性格上、『日常』のアニメーション版か、原作をある程度読んでから手に取ったほうが理解しやすいかも知れません。

それにしても、このフォント(よく知られた話だが、Panasonicのロゴや、JR東日本の駅名標(英語)のフォントがHelveticaである)の名前っぽいタイトルはどこから出てきたのだろうか?
あと、複数の登場人物が昔(藤井寺球場が本拠地だった頃)の近鉄バファローズのベースボールキャップを被っている理由はあまり考えないでおこう。

日常(一) / あらゐけいいち

★★★★★
Selamat Pagi!!

アニメーションきっかけで本書を購入。
原作では東雲なのは最初から時定高校に在籍しているのですね。

第1巻を読んだ感想としては、それぞれのキャラクターの動きが目まぐるしく、アニメーションを観ているかのような感覚を覚え、まるで、作者は最初から本作がアニメーション化され、メディアミックス展開されることを念頭に置いて描いたのでは?と思ってしまう程。もしそれが事実だとしたら、このストラテジー通りな状況に作者はニヤリとしているのやも知れません。
そういう意味ではアニメーションになるべくしてなった作品といえるでしょう。
『この作品は人を選ぶ』というレビューを展開されている他のレビュアーの方もいますが、あくまで個人の感想ですが、本作は肩肘張らずに読むスラップスティック・コメディかつ純粋なエンタテインメント作品かと。本作以上にシュールかつ破天荒な作品はいくらでもありますしね。

それにしても、繰り返しを表現するのに音楽記号を使ったのは旨いなぁ。

2011年07月31日

アマガミSS ビジュアルファンブック / テックジャイアン編集部

★★★★★
DVD/Blu-Ray版アマガミSSの副読本として是非

Amazonの箱を開けたときの第一印象は『でかっ!!』。
それはともかく、本著はメインヒロインごとにキャラクターとストーリーの紹介をしている6冊+別冊という構成で展開されておりますが、別冊には雑誌等のメディアに掲載されたイラスト集(タワーレコードに同社のエプロンを着けた『等身大七咲逢』がいたなんて!!渋谷の同店に行けば良かった)や、美術設定(さまざまなアニメーションの家や建物の間取りや構造に興味を持つ小生の知的欲求を満たすものでした)そして読み応えのあるスタッフインタビューと、本著のメインはむしろ別冊のほうでは?と思ってしまうほどの充実ぶりでした。

DVD/Blu-Ray版棚町薫編の最後の自転車のシーンの追加の背景や、七咲逢編のEDの『ネイキッドシーン』についてはTV放送版ではDVD/Blu-Ray版よりも若干トリミングしていたなど、小生も知らなかったことを知ることができた一方で、桜井梨穂子編のEDのBメロと2番目のサビの間の間奏の部分の絵がTV放送版とDVD/Blu-Ray版で異なる理由が分からなかったのがちょっと残念。

4話完結×6人+αという構成は、今までに見たことが無いシステムでしたが、今後、本作以降に展開される恋愛シュミレーションゲームがアニメーション化される時は、このようなシステムが新たなスタンダードになるのかも知れません。
また、このような本が出るということは、本作品の人気が非常に高かったということなのでしょう。
惜しむらくは、モデルとなった千葉県銚子市の風景との比較があれば尚良かったかと。DVD/Blu-Ray版森島はるか編のオーディオコメンタリーで監督の平池氏も千葉県銚子市がモデルであると明言していましたし、機会があれば行ってみるのも良いかもしれません。『絢辻さんは裏表のない素敵な人です。』の神社や、棚町薫のバイト先という設定のファミレス、直接ストーリーには関係ないけど存在感のあった風力発電の風車などは意外と簡単に見つかりますよ。

2011年05月08日

柴犬さんのツボ / 影山直美

★★★★★
そうか。自分は「犬が嫌い」なのではない。「犬を飼うという行為」が嫌いだったのだ。

本書は、イラストレーターである著者が絵と文で「柴犬あるある」を綴っている。 「犬を飼うという行為」は、日常の多くの部分を犬に捧げる事。その覚悟が出来た者に対してのみ、おバカで愛くるしい犬との生活を手に入れる事が出来るのだ。一人暮らしで、自分自身の世話ですら四苦八苦している小生には、とても無理な話だ。かと言って、「わんこLOVE」という訳でもないので、別段しょんぼりはしないのだが、犬を飼っている人に対しては、生きている事に若干の余裕を感じ、少し羨ましく思っているのは自分だけだろうか。

柴犬ではないが、実家で飼っていたポメラニアンの事を思い出した。あやつは小生が欧州で長期間過ごしている間に実家にやってきて、その後一時帰国した小生に向かって「何新入りがデカい顔しとるんじゃゴルァ!!」と言わんばかりにキャンキャンと吠えまくっていたり、「ふわふわしている何か」を捕まえるべく、自分の尻尾を追ってクルクル回っていたり、マニアックなAVよろしく自分のウ○コを食いかけたり、リビングの片隅に薄汚いハ○ーキ○ィが放ったらかしになっていたりといったことだ。今となってはちょっと良い思い出である。
そのポメラニアンが荼毘に付されて、間もなく一年が経とうとしている。

のはなしさん / 伊集院光

★★★★★
事実は小説よりも若干奇なり

前作「のはなしに」から1年、配信媒体だったツーカーセルラー東京がKDDIに吸収され、電波が停波してから2年半。 総じて、大きく背伸びをする訳でもなく、「俺芸能人だぜ」みたいなトーンを出すわけでもなく、筆者が五感で感じた事をそのまま文章という一次元のものに変換しただけなのだが、実は変に話を盛ったり作ったりするよりもかなり難しかったりするし、それをさらっとやってしまうのは相変わらず凄いところ。

『こいつ、一番最初の話だけ読んでレビューを書きやがったな。』という邪推をされることを覚悟の上で触れるが、一番良い話だなと思ったのは、『「愛だの恋だの」の話』。TVのトーク番組やバラエティ番組で、『男は誰しも浮気をする生き物』みたいなトーンで話が展開するたびに、「あまりおねえさんを選り好みするような立場ではない」小生としては、著者と同様、リアリティを感じないどころかちょっとしたフニオチ感を覚えていたのだが、著者や、著者の取り巻きの反応、著者が出演する番組を観た視聴者からの手紙のくだりで、自分の感覚が決しておかしいものではないことに少し安心。

『「新幹線」の話』に関しては、昔自分も同じようなことを飛行機に乗っている時で考えていました。飛行機が透明だと仮定し、時速900km/hで移動しながら上空10000フィートの上で眠りこけたり「タダだから」という理由で何杯もジントニックを飲んでほろ酔い状態になったり、Beef or Chicken?の問いにドキマギしている状態で空を飛び続けている画。そしてふと右上を見ると、同じような光景が違う高度で繰り広げられていたりするのを想像すると案外面白い。

『「タン塩」の話』も、焼肉屋に行くたびに、タン塩に載っていたネギが重力に負けて網目をすり抜けてしまい、筆者同様、毎回しょんぼりしていたのだが、「この手があったか!!」と思わず感心。早いところ、たまに行く焼肉屋でも導入して欲しいものだ。

2011年04月20日

清く正しい本棚の作り方 / (TT)戸田プロダクション

★★★★★
本棚を作るため「だけ」に絞った本

『自宅の構造に合った本棚の作り方』に徹した、一般的な日曜大工の本とは一線を画した本。
趣味としての日曜大工とは異なり、作る過程を楽しむのではなく、家具屋に行っても自分の家や部屋に合う本棚が無いから自分で完成度の高い本棚を作るというところからのスタートなので、難易度の高い材木のカッティングは業者に任せる、最も楽な方法で作るといった、違った視点で(しかし目的には適っている)の本棚作りに重きを置いている。(むしろ、著者は既存品で間に合うものをわざわざ日曜大工で作ることには否定的ですらある。)
前述でも触れたが、『本棚を作るためだけの本』なので、よそ見をせずに、本書に書いてあることを忠実に実行すれば、ちゃんとした本棚を作ることができるだろう。とはいっても、小生はまだ設計図と木取り図をを引き、シナランバーコアのサブロクが何たるかを知るために、隣町の大型ホームセンターで下見をした程度ですが。

2011年02月26日

多読術 / 松岡正剛

★★★★☆
真似できるところとできないところ

編集者であり、読書家としても知られる松岡正剛氏がインタビュー形式で、いかに多くの本をしっかり読んでいくかを解説している。
ここでテーマにしているのは、あくまで『多読』であって、『速読』ではない。著者の、自分が興味を持ったテーマの本なら自然と読む速度が早くなるというコメントに納得。どんなに本を早く読めたとしても、頭の中に入らなければ何の意味も無い訳ですし。
小生は、本をなるべく綺麗な状態で保存したいと思っているので、氏が言うように気になった部分に線を引くことは流石に躊躇するが、その代わり、読みかけの部分だけではなく、気になっている文章が記載されている部分にいくつも栞を挟んだり、テキストエディタを起動して本文を転記したり、感じたことを書き込んだりすることによって反芻し、本に対する(自分なりの)解釈と理解を深めていく。また、このようにレビューを書く際に非常に役立つという副次的な効果も表れるので、本を多く読む、或いは読みたい皆さんは特に本書を読んでみた方がよろしいかと。いつか、「或る本を起点として、関連した本を芋づる式に読んでいき、ふと気が付けば最初と全く違うところにいた。」みたいな経験をしてみたいものです。

2011年02月21日

それでも町は廻っている 8 / 石黒正数

★★★★★
歩鳥の願いとは裏腹に…

あとがきで著者が述べているように、第8巻は歩鳥でもどうにもならない事を描いた話が収められており、第7巻第55話(時は待ってくれない)での「商店街もみんな今の感じが続くといいなっ…っていうか…誰にも嫌な事が起こらず誰ひとり欠けてほしくなくて…」という歩鳥の願いとは裏腹に、商店街のラーメン屋が店じまいしてしまう第65話(さよなら麺類)は、自分の意思とは関係なく、自分の周囲が少しずつ変わっていく様を端的に描いたお話(実はラーメン屋以外にも、シーサイドにもちょっとした変化があるようですが、それが何かは探してみてください)。
時が過ぎて、自身の置かれている立場が変わったり、人それぞれが意思を持ち、自身の目的に沿って生きている限り、誰がどんなに変わらないことを望んでも、それは無理な相談である事を再認識させてくれる。個人的な事を言えば、10年前と今の小生を中心とした相関図は全く異なっているし、20年以上前に通った通学路の里芋畑は今は一戸建てやマンションが並ぶ住宅地だ。

他の話においても、第61話(大怪獣 尾谷高に現わる)は、3年生になった歩鳥が映画研究会の新入部員勧誘用ショートフィルムの撮影を手伝ったことがきっかけとなって起きた騒動を描いたもの。歩鳥の推理が冴えわたり、事件は8割がた解決したが、残りは歩鳥でもどうしようもないことだったり、第62話(踊る大捜査網)においては、安楽椅子探偵を気取りながらも実は弟・猛の手のひらで踊らされているなど、タイトル(それでも町は廻っている)に含められた意味の一部を知った気がしました。当然著者の事ですから、ダブルミーニングどころか、トリプルミーニング以上のものが含まれているのでしょうけど。

2011年02月15日

それでも町は廻っている 7 / 石黒正数

★★★★★
2 stories in 1 episode!!

第51話(ホワイトデビル)における、RPGに例えた野球のルール説明が秀逸。野球のルールは一度覚えてしまえば何て事無いのだが、全く興味の無い人にとっては、『白い悪魔』が『聖剣』によって飛ばされている間に『砦』に行くのは分かったけれど、何故ノーバウンドでキャッチされたらダメなのか?『砦』を廻る方向が反時計廻りなのは何故なのか?ということに疑問を抱く気持ちは分からなくもない。小生は幸い、子供の頃、某プロ野球球団の本拠地近くに住んでいたため、スタジアムに行くたびに、ふと気が付けばルールを把握していたが、逆にルールを全く知らない麻雀に関しては、歩鳥と同じ状況に置かれていた訳ですから。グワッグワッ!!
関西人ではない森秋先生が、何故タイガースファンで、興奮するとエセ関西弁を使うのか(関西人以外が関西弁を使うのは「本物の関西人」が忌避することである)という謎の解明については今後に期待。

第55話(時は待ってくれない)は、表面上は調理実習の話だが、人知れず重大な決断を迫られ、悩む紺双葉と、意図せずに誰ひとり欠けて欲しくないと願っていると語る歩鳥。話が大きく進展している訳ではないが、紺双葉がどんな選択をするのかが気になるところ。

第58話(血のバレンタイン)も、表面上はシーサイドでバレンタインデーのイベントの計画を立てる話だが、実は真田君が何故歩鳥のことを好きになっていったのかが描かれており、一つの話の中に二つの事柄が並行しながら進行し、最後に一つに結び付くという話の組み立て方が秀逸。

あと、ようやくタッツンがレフティであることに気付きました。読むたびに新しい発見がありますね。ううっ、迂闊でした。小生もレフティのくせに。

2011年01月31日

それでも町は廻っている 6 / 石黒正数

★★★★★
ストマックキューッ!!

第6巻は特定の話が突出して良いのではなく、全体的に安定して良い話が続いているなと感じた。唯一しんどかったのは、基本的に恋愛のお話ではないことは分かっているが、真田君が優柔不断故に第43話(フリーマーケットで歩鳥とキス)での失敗を生かしきれず、第44話(ざっくばらん)でまたも失敗してしまう姿は、高校生の頃の自分を見ているようで少し胃が締め付けられるような感覚がしたくらい。言うまでも無く、これは個人的な感情なので、別に作者を含む誰が悪いというわけではないのだが。

第46話(タイムカプセル)は、昔の喫茶店にはテーブル型インベーダーゲーム(or アルカノイド)とセットで置かれていた、\100入れてレバーを引っ張ると結果が印刷された紙が出てくる占い機のお話。本当であれば、ちゃんと結果が印刷された紙が出てくる結果が印刷された紙が出てくるのだが、途中で業者から占いの結果の紙を買うのを止めたのか、幼少の頃の歩鳥と、女子高生時代の亀井堂静が仕込んだ点取り占いのパロディに入れ替わっているのにクスリ。ちなみに小生と占い機との出逢いは「ぎょうざの満州」でした。

第47話(ヒーローショー)では、「イカホース」の姿に思わず吹いてしまった。ユキコの「なぜオメガスティックをつかわなかった?」の問いの答えは「東映の許可が無いと使えない。」が正解かと。

第50話(まぼろしの少年)は福井が舞台のお話。他人の事(綾鳥真琴・ムーちゃん・有村奏也の関係)は目ざとく推理するくせに、東京に於ける自分の置かれている状況(歩鳥・真田・タッツンの関係)には全く気付いて居ない歩鳥にある種の可笑しさを感じた。

2011年01月30日

それでも町は廻っている 5 / 石黒正数

★★★★★
支配(?)からの卒業!?

表向きは、嵐山歩鳥の日常生活を描いたギャグマンガだが、日常生活の範囲内という制約を守りつつ、緻密に計算されたミステリー&(藤子・ F・不二雄チックな)SFを見事に共存させており、伏線やメタファーが沢山埋められているにもかかわらず、それをしっかり無駄にせず回収しているところがこの作品の凄いところ。その細かさには思わず脱帽してしまう。その考え方は、第39話(夢現小説)での亀井堂静の「歩鳥は毎日楽しいか?(中略)それを言葉にしていくのが小説なんだよ。突飛な事書こうとしてもだめなんだよ。」という発言に凝縮されている。

第36話(卒業式)は、歩鳥が数年ぶりに卒業した小学校を再訪したことにより、卒業とは物理的、心理的両方の意味において、自分自身の世界が広がる一つのきっかけであることを認識するお話。 小学生の頃は、自宅・町内・学校が自分の世界のすべてだったのが、中学、高校、大学、社会人とステップを踏むたびに、自分の行動範囲が海外にまで広がったり、自分自身で何かを決めることが出来る範囲が広がっていくさまを、嬉しさ半分、不安半分に感じていたことを思い出しました(言うまでも無く、尾崎豊は『卒業』で、自身の世界が限定的である状況を「支配」と定義していますね。)。そして本編では第42話(学校迷宮案内)への伏線が張られています。

第38話(俺たちは機械じゃねぇ)では、英国在住の紺双葉の両親が登場。今すぐという訳ではないが、日本に残るか、英国に渡るかの決断を迫られるフラグが立ったようですので、今後の展開が気になるところ。個人的な経験から言えば、なるべく早く決めないと家族としてのビザの発給が難しくなりますし。

第39話(夢現小説)では、幼少時の歩鳥の人格形成に影響を与えた近所の古物商のおねえさん、亀井堂静が門石梅和というペンネーム(亀井堂静のアナグラム) で小説家として成功し、その事実を隠した上で発売前の自著(異形回帰)を歩鳥に貸してみたり、金回りが良くなって購入した三菱i(アイ)の助手席に乗せたり、うなぎを奢ったりするといったヒントを与えておいた上で、いつ事実に気付くかを楽しむお話。この話をきっかけに、新しい展開がありそうです。

歩鳥の弟、猛がメインの第42話(学校迷宮案内)は、課題の壁新聞作成を通じ、一つ一つの出来事や証言を精査し、それを積み重ねる事によって小学校の中庭の謎と噂の真相に近づくプロセスを丁寧に描いた読み応えのある作品。

2011年01月27日

それでも町は廻っている 4 / 石黒正数

★★★★★
切なくて甘酸っぱくて、少し考えさせられる

第4巻は、第3巻のスラップスティック・コメディー色が若干薄まり(ゼロになったわけではないし、ギャグ要素もちゃんとある)、今までとは違ったテイストの話が展開されている。

自分の住む町や村がさびれていくのは厭だ。しかし、活性化の名の下に、急激に環境が変化したり、余所者が大挙してやって来るのも厭だという、田舎独特のジレンマを見事に纏めた第29話。

歩鳥が、同級生・真田広章の微かな記憶を手がかりに、『ミシンそば』を探した二人がちょっと切ない答えに辿り付いた第31話。

歩鳥の弟、猛がメインの第33話は、かつて歩鳥と真田が通ってきた道(参照:第3巻第26話)を、猛と、猛の同級生の伊勢崎恵梨が違う形で通っているさまは、小学生の時の男子同士の世間体のことを思い出し、ちょっと甘酸っぱい気持ちになった。

それでも町は廻っている 3 / 石黒正数

★★★★★
日常の中の非日常

第3巻はSFチックな話はない代わりに、歩鳥を中心としたスラップスティック・コメディーに徹している。

一見すると、何でもない日常生活を描いているように見えるのだが、歩鳥がいる事によって起伏に飛んだストーリーになっている。それでも彼女の周りに皆が集まるのは、他のキャラクターたちの心の広さなのか?歩鳥が『お子様キャラ』だからなのか?それとも憎めない性格故のことなのか?

それにしても、珍奇な女性キャラクターが珍奇な文章のプリントシャツを着るのはもはや『お約束』なのだろうか?(例:『けいおん!』における平沢唯)

あと、「うこばち」という訳の分からない擬音語もツボ。

2011年01月24日

それでも町は廻っている 2 / 石黒正数

★★★★★
S(少し)F(不思議)の継承者!?

一言で言えば、一見平凡に見える日常でも、切り取り方によってはここまで面白くなるという良い例かと。 第13話で歩鳥が虫眼鏡をくっつけて改造したモンブラン(万年筆)を『万年虫』と紹介するくだりは、ドラえもんのひみつ道具を四次元ポケットから出すときの様子を、、第18話(穴)では、ドラえもんの話のオチに良く使われる、ひみつ道具を乱用した結果、超常現象が起きた跡みたいな状態になり、翌日に世間が大騒ぎになって終わるパターン、そして飼い犬ジョセフィーヌは『エスパー魔美』の「コンポコ」を髣髴とさせるなど、藤子・F・不二雄の影響が垣間見える。(但し、コンポコはタヌキ呼ばわりすると激怒するが、ジョセフィーヌは何も理解していないという違いはあるが。)

また、小さな伏線を張るのが旨く、第12話で歩鳥が紺双葉へのお土産として買った『貫一・お宮の置物』が第17話で凶器となってしまうくだりはちょっと笑ってしまった。

あと、アニメ版では分かりませんでしたが、タッツンは必要に応じてコンタクトを使うが、普段は敢えて眼鏡をかけていることを暗喩するくだりと、第18話(穴)において、あの宇宙人が何を言わんとしていたのかが分かるようになっています。

それでも町は廻っている 1 / 石黒正数

★★★★★
小説を読むような感覚

テーマとしてはSlice of Life Story(日常生活モノ)で、一歩間違えれば冗長になってしまいそうなのだが、歩鳥をはじめとした登場人物たちのパーソナリティが強く、漫才の掛け合いを見ているかのよう。そう言う意味ではギャグマンガではあるのだけれど、その一方で、作者は実は小説家になりたかったんじゃないかと思えるほど、話の展開の仕方が小説的な印象、もっと言えば、登場人物が顔見世的に一通り登場し、小~中規模のイベントを通じてさりげなく人となりを読者に刷り込む第一章のような感じを。久々に、次巻以降が楽しみな作品に出会えました。

2010年08月30日

7割は課長にさえなれません / 城繁幸

★★★★☆
雇用の流動化に賛成だが、その前にやることがあるのでは?

1999年。就職活動に失敗した小生は、1年間の警備会社でのアルバイトの末、やっとの思いでヒーターを扱う小さな会社に入社した。
本当にやりたかったことは別にあったが、新卒ではなくなったという理由だけで選考の対象にすらなれず、かと言って、一般の求人では即戦力を求められるケースが多かったため、これもまた選考の対象にならなかったのだ。
あれから10年以上の月日が流れたにもかかわらず、いまだに新卒中心の採用を続けているが故に、結果的に就職活動に失敗した大学生が新卒枠で就職するため、あえて留年するといったバカなことが未だに起きているのが情けない。

正社員を解雇しやすくするためのルールを作る代わりに、年功序列と年齢給を廃し、その人の能力、業務内容で給料を決定することにより、卒業から時間が経過した元学生の就職や、中高年にも転職できる道を開くという考え方には賛成だが、それには十分な求人数があることが前提となる。イス取りゲームのイスが少なくなってしまっては、単に失業者が増えてしまうだけだろう。リーマンショックのあと、ニュース番組の特集等で『派遣切り』に遭った人たちが老人ホームでの介護の職に就いたり、農業法人で野菜作りを始めた人を取り上げていたが、これらの人たちは、失業率を下げることには寄与しているだろうが、その労働に見合った給料を貰っているのだろうか。もしかしたら、高い付加価値を生み、他国がなかなか真似出来ない新しい産業(できれば複数が望ましい)を育てないと、将来は厳しいものになってしまうかもしれない。

2010年06月07日

「文系・大卒・30歳以上」がクビになる 大失業時代を生き抜く発想法 / 深田和範

★★★☆☆
現状はその通り。しかし…

本当に必要な仕事をしていないホワイトカラーが増えたから、日本の労働者の生産性が低いという筆者の主張は理解できる。
本来であれば、ごく少数で十分なはずのホワイトカラーの就業者数が増え、自らがホワイトカラーであり続けるために、直接利益を持たない『仕事のための仕事』を作り、忙しさをアピールしている部分もあるだろう。
これはあくまで私見だが、そもそもホワイトカラーの数が多いのは、簡単に言ってしまえば、ブルーカラーと比べ肉体的なダメージが少ない上に、高給を取ることが出来るからだ。
それに、世間が『誰にでも出来るような仕事』に高いカネを出さなくなってしまった今、高卒でも出来るような仕事を、 大卒の自分がわざわざする必要が無いという意識もあるのではなかろうか。
また、自分の人生が、所謂『派遣切り』に遭った派遣労働者よろしく、ほんの少数のデシジョンメーカーによって翻弄され、 モノみたいに扱われるくらいなら、何が何でも、デシジョンメーカーの側につきたいと思うのが本心だろう。

筆者は、介護職等、社会的に需要が大きい職種へシフトすることにより、余剰ホワイトカラーの労働力を吸収させるべきという意見を展開させており、また、ホワイトカラーの賃金が下がり、介護職等の賃金が上昇するだろうとしているが、仮にいずれそうなるにしても、真っ先に『人柱』になろうとする人がいるのかどうかは疑問。
しかし、リストラされてからあたふたするのではなく、今のうちから自分が本当にやりたいことが何かを考え、少しずつ行動に移すべきという意見には同意。

2010年05月05日

アロハ魂 / 小林聡美

★★★★☆
Hawaii is not only Honoluluってことは分かった

小林聡美が仲間たちとハワイ島のヒロやコナで過ごした数日間を描いた旅行エッセイ。
「多くの日本人がハワイイコールオアフ島そしてホノルルを連想する中、ハワイ島に注目したのは良い着眼点でしょ♪」と言わんばかりのトーンはともかく、内容としては、日曜日の午後によく放送されている、そこそこのアベレージヒッターなタレントが出演する地方局制作の旅番組(個人的なイメージで言うなら、中京テレビかCBC制作。出演者のイメージは敢えて控えさせていただく)を観ているような感覚に近い。

ホノルル以外のハワイに興味があるなら。

2010年01月29日

走れ!ビスコ / 中場利一

★★★★★
エピソードの入れ方が巧みかつポップ

実際の企業は、本編のようにいち新入社員にいきなり多くを抱え込ませたりはしないだろうが、読んでいくにつれて、自分は何をしに会社に行っているのか?そして何をすべきか(或いは何をしなければならないのか)を改めて考えさせられる。

舞台となっている主人公が働く大阪の製菓会社は、パワハラまがい、不倫、ワンマン、お嬢様社員の我儘といった、一癖も二癖もある人たちの集まりで、同族企業におけるあるあるネタ(例:トップさえ説得すればトップダウンで迅速に物事が進む。その一方で経営者の暴走を社員が止められず、社員が尻拭いをする)や、ダメ社員に振り回されて翻弄されるなど、ジェットコースターの如く話が展開されていく。

ストーリーのアップダウンの落差が、読み応えに比例するのだとしたら、そのねじ込み方が良い意味で巧みだなぁと感じました。面白い小説の基準の一つとして、『一気に読めるかどうか』というものがあると思うので。

2009年10月14日

のはなしに / 伊集院光

★★★★★
不器用さをロジカルに表現できる稀有な存在

前作から2年、配信媒体だったツーカーセルラー東京が消えてなくなってから1年半。続編を望む声に押しつぶされそうになったり、ようやくやる気になって、違った環境に身を置いて作業を進めるべく、『サンライズ出雲』にPCを持ち込んで作業をしようとするも、うとうとしてしまい、気が付きゃ宍道駅付近だった (ラジオ「深夜の馬鹿力」より抜粋)などといった紆余曲折を経て満を持して、満を持し過ぎた故に危うく弓が切れそうで切れずにようやく発売された本書。
当然ラジオのオープニングトーク(とはいっても、2時間番組のうち1/3程度が費やされるほど長い)の内容と被る部分は出てくるのだが、ラジオと異なり、話の途中で右の乳首から変な液体がビュービュー出たり、アピヨン星人が出て来たりするくだりがない分だけ、うまくまとめられているのは前作同様である。 リスナーでなくても、『アメトーーク』の「中学の時イケてないグループに属していた芸人」や、さくらももこ著『永沢君』が好きなら、本書もスッと読める筈。

読後の感想としては、あくまで勝手な解釈ではあるが、文章全体から、本当はみんな大なり小なり「ダメな部分」があるくせに、なにしゃらくさい事しているんだ?多少ダメでも、自分に正直な方が楽じゃないのか?というトーンが隠れているような気がするのは自分だけだろうか。

2009年08月27日

恋文の技術 / 森見登美彦

★★★★★
往復書簡の片道分

修士課程の研究のため、京都から能登半島に飛ばされた大学院生・守田一郎(チェリーボーイ)が、京都でかかわって来た人たちと、研究以外の愉しみと、寂しさを紛らわす手段として往復書簡を交わすという体で物語が進んでいく。
手紙を通じて、自分の好きな人に恋文が書けない、書けてもとんでもないものができてしまうくだりは、ウブでチェリーボーイだったあの頃の自分とオーバーラップしてしまう。
それでいて、大学院の修士課程という立場にありながら、主人公・守田と友人の小松崎は完全に『中二病』を患っているが、男と言うのはいつまで経っても、表に出す出さないは別として、つくづく女性に呆れられるライフスタイルを実践する生き物なんだろうなぁと改めて感じた。
また、昔、みうらじゅん氏が「童貞である期間が長い人ほど、クリエイティヴかつ知的な職業に就く割合が大きい」と言っていたことを思い出す。童貞を患っている主人公が文通に昇華し続ける理由は、きっとこのあたりにあるのかも知れない。

これを言ってしまえば元も子もないが、主人公の妹が言うように、結局のところは自分の想いを伝えるには、一対一で直接会ってお話した方がよろしいかと。
素朴な疑問として思ったのは、新人作家や文学賞応募作品で使うのは薦められていない、作者本人が登場するというくだりが許されたのは、それなりの作家であると世間に認められたということなのだろうか?

2009年08月23日

頭がいい人の聞く技術 / 樋口裕一

★★★★★
『コミュニケーション能力』の基礎

自分は学生の時ほどではないものの、相手の言葉をそのまま受け取り、相手が本当に伝えたいことを理解することに困難を伴っている。言いかえれば、他人よりもコミュニケーション能力が劣っているのだ。それによって仕事にも影響が出てしまっており、何とかするべく、本書を手に取った。

前半では、話を聞かない人や、聞けない人、本書で言うところの「コミュニケーション力」がない人の具体例を提示しており、明確にそうは言っていないが、読者にこれらの行動を反面教師にして動くことを促し、後半ではいかにして、相手の言葉の中から、本当に重要な情報は何かを選び、自分のものにしていくか、具体的な方法を提示している。

自身の、相手の意志や考えを聞く力や、コミュニケーション力を向上させるには、後半部分を繰り返し読み、その中から自分が出来ることから実行していくのが良いのだろう。

また、本文の、
「自分は優秀だ」「普通の人とは違う面白い視点を持っているんだ」という根拠のない自信を持っている。だから人の意見など聞く必要はないし、むしろ自分がたくさん話すことが、他人にとって有益だと考えている。それが無自覚だからやっかいなのだ。
というくだりは、自分にとって痛いところを突かれてしまった。

2009年04月13日

小説・秒速5センチメートル / 新海誠

★★★★★
アニメーション版の補足に

まず、 相手のことが好きで好きで仕方がないにも関わらず、うっすらと、この人とは一緒になれないと感じた瞬間の切なさや、その一方でそれを認めたくないという想い。時として酷な結果を突き付ける時間や運命の描き方が秀逸で、読後は切なさで胸が締め付けられるような感覚に陥った。

小説版においては、アニメーション版ではあまり触れられていなかった、中学生になった遠野貴樹が篠原明里に会いに栃木に向かう際、埼京線の中での、長野から東京に引っ越して来た時の思い出とのオーバーラップや、澄田花苗と姉とのやり取り。大学進学のために再度上京した遠野貴樹が東京でどう生きてきたかなどといったバックグラウンドやディテールが描写されており、アニメーション版と小説版とで相互補完されている仕組みになっている。

また、自分自身の勝手な想いであることは百も承知だが、自身の遠い学生時代に、好きだった女の子とは片想いのまま終わり、この物語のように仲むつまじく様々な思い出を共有したことは無かったけど、街で学生服姿の男女のカップルを見るたびに、これから先、いかなる結果を迎えようと、彼等にとってこの瞬間が一生の宝物になるよう願わずにはいられなくなりました。

2009年04月10日

つるっつるの脳みそ 幸福な遺伝子 / つるの剛士

★★★★★
クイズが出来ない≠頭が悪い、そして、おバカ≠バカ

TVやスポーツ紙等で、彼を含む『羞恥心』や『Pabo』は所謂『おバカタレント』扱いされてはいるが、彼等は決して『おバカ』なのではなく、たまたま過去において、世間の多くの人たちが知っているであろう知識を得る機会が無かっただけのだろう。
それを証拠に、『ヘキサゴンII』において当初は珍回答が多かった彼等も、成績ではトップにはならないにせよ、今となってはある程度正解できるようになっているし、本書で触れられている、つるの剛士自身が高校受験を前にして、偏差値36であるというところまで追い詰められ、本気で勉強に取り組むようになったら、瞬く間に偏差値63になったというエピソードにも合点がいく。
(同様に同番組で珍回答を連発していた元巨人の元木大介や、千葉ロッテの西岡剛もおそらく野球一筋で、他の勉強をする機会が無かったと思われる)

また、つるの剛士本人がそれを意識しているかどうかは知らないが、本書の中でたびたび触れられている、自分がやりたいことにポジティブな気持ちを持って前向きに取り組んでいるというマインドを持ち続けていたという姿勢やエピソードは、自己啓発本ではよくあるくだりではあるが、もし彼が自己啓発本の類に目を通すことなく、本書の内容どおりに生まれながらにしてそのマインドを持っていたのだとしたら、それは物凄い才能なのだ。多くの人は、ちょっとしたことでモチベーションが下がったり、自分自身に限界を作ったり、ダメな奴と思うことによって、無意識に自分自身にリミッターをかけてしまうからだ。もしかしたら、下手な自己啓発本よりもむしろ本書を読むことにより、自分自身にかかったリミッターを外すヒントにはなるのかも知れない。

あと、読みやすいです。行きと帰りの電車の中、合計約2時間弱で読み切れましたし。

2009年04月08日

1995年のスモーク・オン・ザ・ウォーター / 五十嵐貴久

★★★★★
1995年のバタフライエフェクト

『人並み』に大学を出て、就職して、結婚して、寿退社して、子供を産み育ててきた、所謂『普通の主婦』が、半分事故に遭ったかのように、破天荒な女友達に巻き込まれる形でバンドをすることになってしまう顛末を描いたお話。
1995年の2/3は日本の外にいたので、1995年の日本をリアルに感じていた訳ではないが、今は昔、旧小室ファミリーがミリオンセラーを連発していたことや、『芸能人は歯が命』のCMが流行していたこと、そして、あの当時はようやく女性が寿退社して普通の主婦になる以外の生き方が世間に浸透し始めていたこと。逆に言えば、絶対的に正しいと信じて疑わなかったものが大きな音をたてて崩れ、今まで以上に誰かに自らの運命を委ねるのではなく、自分の道は自分で切り開かなければ生きていけなくなったことは少なくとも理解していた。そして、その波がバンド活動という形で主人公に覆いかぶさって来て、慌てふためく一方で、自分自身の潜在的な気持ちに気付いていく過程がうまく描かれている。

そう言えば、本文では触れられてはいないが、作者が『Smoke on the water』を選んだのは、日本語直訳ロックの『王様』が、ディープパープルの歌詞を直訳して歌った『深紫伝説』がポテンヒットしたのが1995年であることに何か関係があったのだろうか。

2009年04月06日

アイスクリン強し / 畠中恵

★★★★☆
新しい世界。新しい菓子。

自分が知る限りでは、日本における西洋菓子の黎明期を描いたものはこれが初めてだったので、発想そのものは斬新さを感じたが、発想の斬新さが先行し、良い意味でも悪い意味でも話の内容は普遍的になってしまっているのは残念なところ。しかし、これは逆に言えば肩肘張らずに読める作品であるとも言える。 また、今後この作品をシリーズものにしても、そのまま終わりにしてもどっちに転がっても大丈夫な感じにしてあるのは、いろんな意味で『うまいなぁ…。』とは思った。
深夜の独立系UHFで放送されているアニメーションのようなストーリー展開が好きなら。

独裁者になる方法 / André de Guillaume・夢をかなえる!世界制覇研究会(訳)

★★★☆☆
内容をどう解釈するか?どう役に立てるか?

歴史上の独裁者の行動・エピソードから、実際に独裁者になるにはどうすれば良いかを『指南』している本。
ここで言う『独裁者』とは、必ずしも国家における独裁者ではなく、会社組織や特定の業界、宗教法人のトップのことも含まれているものの、あくまで歴史上の独裁者の行動・エピソードをなぞった内容であるため、これがビジネス上で役立つかどうかは、この本の内容をどう解釈するかによると思われる。そう言う意味では分かり辛い本ではあるが、どうやってライバルを消すか?或いは、誰を味方に引き入れるかといった見極めには役立つかも知れない。
また、何故、会社組織の中で『独裁者』だった事故米や牛肉偽装の社長たちがコンプライアンスを無視してまで自らの立場を守ろうとしているのかが、これを読むことによって、少しだけ分かったような気がした。

2009年02月04日

タッチアップ / 田澤拓也

★★★★☆
高校野球への潜在的な願望

ノンフィクション作家である著者が描く、初のフィクション。

現実の野球部で、これはと言うプレーヤーどうしが示し合わせて同じ高校に行くというシチュエーションは、自分の知る限り見たことが無いので、若干リアリティに欠けるにせよ、『平凡な公立校』が高校野球で善戦するというストーリーを描くにあたり、辻褄を合せるためには、やむを得ない部分なのだろう。
「ドカベン」や「MAJOR」同様、神奈川県を舞台にした作品ではあるが、部活動にあまりリソースを注ぎ込むことが出来ない公立校が甲子園を目指すストーリーは、実際の第89回大会で優勝した、佐賀県立佐賀北高等学校を彷彿とさせる。

サッカーの話で恐縮だが、ワールドカップで優勝したナショナルチームと、トヨタカップで優勝したクラブチームを比べたら、明らかにクラブチームの方が強いと言われている。
ナショナルチームでは、多少パフォーマンスが劣っても、同じ国籍の人間からプレーヤーを選ばなければいけないが、クラブチームでは、自分のチームに必要な人材を世界中から集め、適材適所の配置ができるからだ。
高校野球においても同じような図式が、地元の生徒しか来ない公立校と、日本全国に散らばる金の卵をかき集めた私立の強豪校という形で成り立っており、しかも、同じ土俵で戦っている現実。それを踏まえれば、日本人の判官贔屓気質がもろに出ている作品と言えよう。

2009年01月13日

脳を活かす仕事術 「わかる」を「できる」に変える / 茂木健一郎

★★★★☆
自分自身を確認するために…

目標を立てたり、願望を抱いたり、思っているだけで、実際に行動に移すことが出来ない人のメカニズムを、一般人にも分かりやすいように説明しつつ、どうすれば行動を移すことが出来るかどうかを説いているのが本書の大筋。
確かに、やる前は大変そうなことに見えても、一回やってしまえば、あとは案外楽に物事を進めることができるものだし、実際に行動する時は、締め切りを直近の時間に、目標をちょっと無理目に設定し、それを速攻で実行するという作業を繰り返すことによって、行動を習慣にすることが出来る。
また、なりたい自分になるには、見聞きするだけではなく、実際に行動すると良いといったことなど、言っている事は、自身の経験上間違いではない。
しかし、目新しいことが書いてある訳ではなく、自己啓発系の本をある程度読んだ人であれば、物足りなさを感じるかもしれない。
『自分がやっている事は間違いではない』という確認がしたい人と、著者のファンなら。

2008年11月28日

寛容力 ~怒らないから選手は伸びる~ / 渡辺久信




★★★★★
ダイヤモンドは社会の縮図♪

たかが野球。試合は英語で「ゲーム」と言う位だから、球遊びに真剣になっている人間に、コミュニケーションの何たるかを語られたくないと思う人もいるかもしれない。
20年以上ライオンズを応援し続けている小生ですらそう思っていたが、優勝記念のご祝儀の意味も込めて買い求めた本書を読み、その考えを改めた。

本書を読み、以前、小堺一機がラジオで言っていたことを思い出す。

嘗て、萩本欽一に師事していた小堺一機と関根勤は、萩本が番組でミスをしたタレントに厳しく注意するのにかかわらず、同様のミスをした自分たちに一切何も言って来なかったのを不思議に思い、もしかしたら自分たちへの興味が失せたのかと心配していたそうだが、萩本は小堺と関根に厳しく接すると萎縮してしまう性格であるのを見抜き、敢えて厳しく接する事はしなかったのだと言う。

それと似た話が、涌井と岸への接し方の違いについて述べたくだりとよく似ているということは、どの世界においても、やっている事は違っても、普遍的なことは変わらないということなのだろう。どの世界においても、コミュニケーションを取る相手を知り、相手と同じ高さと視線で接するのは非常に大切なことだからだ。

また、デーブ大久保の打撃コーチ登用や、例年以上に高かった機動力、故障者の少なさの背景、そして、監督自身が指導者としてのバックグラウンドをスワローズと台湾で築き上げた時のエピソードがロジカルに描かれており、それを読み進めて行くに従い、ライオンズファンであることを差し引いても「これで強くならない方がおかしい」と思ってしまった。

2008年08月27日

思考の整理学 / 外山滋比古

★★★★★
まずは数日試してみよう

筆者が本書の中で時折、物事は夜ではなく朝に行なえと説いている部分を散見するが、初めは朝に何かを行なおうとしても、眠気まなこな状態で一体何が出来るのだ?と思っていた。

しかし、物は試しにと一回、夜は普段よりもかなり早く寝ると、朝6時に目覚め良く起きる事が出来ただけでなく、ちょっとした掃除や洗濯、自分がやっておきたかった作業の数々を効率的にこなす事が出来るという素晴らしい結果に落ち着いた。(※効果には個人差があります。)

思い返せば夜に何かの作業を行なう時は、なまじ時間的余裕があるために、ついつい不要不急なネットサーフィンしてしまったり、深夜放送を見ながら行なったりしていたため、結局あまりはかどらないままいたずらに時間が進んでいたのだが、逆に朝に何かを行なうと言うのは、ある時間になったら強制的に家を出て会社や学校に向かわなくてはならないから、その時間までに集中して物事に取り組む事が出来るという効果もあるのだろう。

また、必要の無い情報を忘れ、頭の中を整理すると言う発想も、「無知と無能は世間から疎外される」というちょっとした恐怖感を抱いていた自分には驚きであったが、かといって、未だにブレイクスルー出来ていない現状から考えても、ここはひとつ本書の考えに乗っかってみようと思いました。

2008年06月17日

米朝よもやま噺 / 桂米朝 (三代目)

★★★★☆
20世紀上方落語の歴史入門

上方落語の重鎮であり、戦後壊滅しかけたそれの復活に力を注いだ三代目桂米朝のエッセイ集。 実際はABC(朝日放送)・ニッポン放送で放送されている自身のラジオ番組『米朝よもやま噺』を朝日新聞社が文章に起こし、アシスタントの部分を抜くなどしてエッセイ調に焼き直して大阪本社夕刊に連載している『米朝口まかせ』として連載されていたものを単行本にしたものある。
正直言って戦前戦中戦後にかける上方の落語家や芸人のことは全くわからず、辛うじて米朝をはじめ、笑福亭松之助や桂ざこばなどの顔と名前が一致する程度ではあるが、師匠の喋りが良かったのか、それとも編集者の力量かは分からないが、結果的に『上方落語の歴史入門』のようになっており、落語初心者が手に取って読んでも大丈夫な内容になっている。また、ラジオ番組のWebに、師匠が喋った内容を文章に起こしたものがあるので、興味があるならそちらも読まれることをおすすめする。

2008年04月16日

格差社会の世渡り 努力が報われる人、報われない人 / 中野雅至

★★★★★
努力のベクトル

自分のまわりには、国民年金すら払うことが出来ない日給\7~8,000の日雇い派遣で働く人や、社会的に必要な職業なのに、いつまで経っても手取り十数万で、結婚どころか自分の生活もカツカツな介護ヘルパーや保育士がいる一方で、大して汗を掻いていそうにないのに年収数千万円以上稼ぐ人たちがいる(いた)。

筆者は、日本人は一部の例外を除いて、基本的にはしっかり働く民族であり、両者の間に努力の差はあまり無いとしている。ワーキングプアやニートになってしまった人、子供の頃から頑張って一流大学を入学・卒業したにもかかわらず、見合ったリターンを得られていない人も、決して自ら望んでこのような生活になったのではなく、その努力が報われないままモチベーションが低下し、今に至っている旨を説いている。

筆者によれば、その両者の違いは『努力の方法の違い』『「見た目が十割」であることをフルに活用した自分自身を売り込む能力』であると言い、魑魅魍魎が跳梁跋扈する世の中を生き抜くヒントを自らの体験を交えて説いている。 詳細は本書を読んで貰いたいのだが、『無駄な努力にリソースを費やさない』『努力が継続できそうな自分の好きな事をする』『潮目を見て行動に移す実行力』がカギであり、その内容には大きく頷けるものがあった。

また、100%ではないにせよここ20年…いや、10年で、もはや『謙虚は美徳』という日本人独特の価値観はかなり薄くなってしまったと感じているのは私だけではないはず。それに気付くことが出来ない限り、努力が報われるのは難しいのかも知れない。

2008年03月23日

携帯端末用Web制作バイブル 第2版 / 八木澤知彦

★★★★★
公式・非公式問わずサイトクリエーター必携!!

本書はiモード/EZweb/Yahoo!ケータイといった各システムごと、また、製品が発売された年代や、はたまた個々の機種によって異なる機種依存文字の数々そして、タグの対応・非対応状況、着信音の作り方など、携帯電話向けサイト作成に必要不可欠である情報が盛り込まれており、『iモードでは動くけど、EZwebでは動かなかった(或いは逆の事態が起きた)』などといった憂き目に遭わないような状況に導いてくれる。 本当であれば最初から最後までざっとでも良いから目を通しておくのが良いのだろうが、カテゴライズがしっかりしていて、文面が分かりやすいので、辞書や百科事典のように、必要な部分を調べて参照にするという使い方が一番合った本書の使い方だろう。なので調べたい事が出てきたら、別段迷う事無く辿り着く事が出来る筈だ。
また、公式サイト・非公式サイト関係無く、同一事業者向けのサイトであれば作り方は基本的には一緒なので、携帯コンテンツビジネスを行なっている人には非常に便利である。

ちなみに、初中級以上程度HTMLを理解している人向けかと思われます。

2007年12月26日

ホルモー六景 / 万城目学

★★★★☆
「使い手」の数だけ物語がある

著者の前々作『鴨川ホルモー』のスピンオフ作品集。

前作でちょくちょく触れられてはいたものの、話の本筋と離れていたので触れられることが無かった、「凡ちゃん」のアルバイト先であるイタリアン・レストランでの出来事や、今は無き「同志社大学黄竜陣」の面影に触れ、少しだけ「ホルモー」に近付いた芦屋の元彼女と、屈強な身体つきに似合わず元彼女と現彼女である早良京子との間で優柔不断に揺れる自分勝手な芦屋。丸の内で合コンという形で邂逅したかつての「オニ」の使い手の話。男に縁の無かった京都産業大学玄武組の女子学生二人のホルモーでの決闘。教習所に通い始めた高村と、バイト先の料理旅館にある長持を介して400年の時を越えて「手紙」を交わす立命館大学白虎隊新会長の女子学生細川(通称:おたま)についてといった、時間軸としては居酒屋「べろべろばあ」の主人の若き日の出来事の話を除けばストーリーは『鴨川ホルモー』本編とほぼ同じ時間軸で流れる、『一方その頃…』的な話であるので、強く前作を読まれることをお勧めする。先に『鴨川ホルモー』を読んでいなければ何の話か分からなくなってしまうかと思われますので。

2007年11月13日

もしもし、運命の人ですか。 / 穂村弘

★★★★★
いいひと=どうでもいいひと

学校で教わる訳でもないのに、沢山の人たちが通る恋愛と言う作業。 別に誰に教わる訳でもなく、生まれたての仔馬みたいにすぐに立ち上がることが出来る人もいれば、暗闇の地雷原を走ったり、免許も持っていないのにジェット機を操縦するかのような感覚に陥り、かすかな期待を抱いては地雷が爆発したり、ジェット機が墜落してしまうという憂き目に遭う自分みたいな人もいる。 渋谷や表参道や横浜元町あたりを歩いている数多の『つがい』達が皆、他に誰もいない場所で「好き」だの「惚れた」だの、「愛している」などと言った言葉をウィスパーしていると思うと、最早ちょっと引いてしまっている自分がいるのは、イソップ童話の『すっぱいぶどう』よろしく、手に入れたくてたまらないのに、いくら努力しても手が届かない女性やモノ、職業、地位などがある場合、それらを価値の無いもの或いは自分にふさわしくないものとみなす事で諦め、自分自身を納得させる行為なのだろうか? この本はあくまで『恋愛至上主義の敗者(?)』である筆者の現状の分析でしかなく、根本的な解決策は書かれていないが、色恋沙汰に対してもやもやを抱えている人が自分の傷を舐めるのには丁度良い。

言っておく。『いいひと』という言い方は、その相手に対し、あまり興味が無いか、いいところが見つからないから言っている当たり障りの無い言葉に過ぎない訳であって、決して褒め言葉ではないのだ。残念ながら。本を読みながら、痛いほど痛感させられましたよ。ええ。

2007年11月07日

ケータイ業界52人が語る「戦略」の裏側 / 石川温

★★★☆☆
「賞味期限」に注意!!

2006年~2007年にわたる、ドコモ・au・ソフトバンクモバイル・Willcom、既存の携帯電話事業者4社の新通話プラン、ターゲットとするユーザーや訴求ポイント、開発に対する考え方や投入する機種、広告戦略に至るまで描かれているのに加え、健闘しているイーモバイルのサービス開始までの流れや、経営破たんが懸念されるアイピーモバイル(このレビューを書いた現在では自己破産してしまったが…)の状況も含め、携帯電話に興味を抱くパワーユーザー層の知識欲を満たしてくれる本。しかし、進化のスピードが恐ろしいほど速い業界であるが故、残念ながら来年の今頃にはこの本の中身の多くは古(いにしえ)のものになってしまうだろう。

2007年度中に読むなら★★★★★、それ以降なら★★☆☆☆です。

2007年10月16日

グラミンフォンという奇跡 「つながり」から始まるグローバル経済の大転換 / ニコラス・P・サリバン 東方雅美 渡部典子(訳)




★★★★★
本当の意味の「援助」とは?

昔、エジプトに行った時に現地の子どもに「1ポンドプリーズ」と声を掛けられた時、どうすれば良いか分からず、ガン無視してしまった事があった。

それに対する一つの答えが、低額の融資を行ない、貧困脱出の足がかりをつかませるグラミン銀行のマイクロローンであり、バングラディシュではインフラ不足であるが故、手に入りづらかった電話を時間貸し携帯電話という形で身近なものにし、多くの人々の「一日仕事」を「ほんの数分の労力」に変え、経済的に自立した女性の時間貸し電話屋を生んだ「グラミンフォン」である。

このモデルは、孟子の言葉を借りれば「魚を与えるのではなく、魚の取り方を教える」ということそのものであり、破綻寸前の藩の財政を立て直すべく、養蚕・織物・製陶と新しい産業を興した米沢藩主上杉鷹山や、明治時代に長崎・外海(そとめ)で技術屋でもあったマルク・マリー・ド・ロ神父があらゆる技術を地元に伝えた事にも通じるものがあるかと。

また、同じような事を自分に応用させることが出来る。

例えば、自炊やアイロンがけを自分で行なう事が出来るのは素晴らしい事だが、一方で本来やりたかった事に時間を費やせず、実現させたい事が先延ばしになっていた。

それを避けるためには外食をし、シャツをクリーニングに出すことにより、自分のリソースを自分のために費やす事が出来るようにした。こう考えると、外食やクリーニングは決して贅沢なものではなく、経済的な選択である事が分かるだろう。バングラディシュの人にとっても携帯電話は決して贅沢なものでは無いのだ。

2007年10月01日

のはなし / 伊集院光




★★★★★
篠岡(田中)建+三遊亭楽大=伊集院光!?

ツーカーセルラー東京メールマガジン「夕刊ツーカー」で連載されていたエッセイの一部を一冊の本にまとめたもの。
元落語家らしく読者(加入者?)からテーマを募り、それを基に芋づる式(彼独特の言い回しで言うならば「ポテト・ロープ」か?)に昔の思い出やエピソード、そして自分のオピニオンといった、携帯電話の画面ではスクロールが大変な程、或る意味サービス精神に溢れた文章を綴っている。かと言って、タレントのブログ本のようにいかにも「芸能人でございます」的な文章ではなく、むしろ物書きを生業としている人の文章に近い。

内容としてはラジオで語られたものが多いのだが、ラジオで語っている時にはかなりの猛毒が混ざっていたエピソードの数々が、面白さはそのままに放送時比で9割の毒が抜けているのは巧いところ。
特に、彼の10代の頃のエピソードに共感を覚えるのは、自分自身が似たような経験をし、様々な感情を抱いても、感覚的には理解しているのに係わらず、「コミュニケーション能力」とは相反する位置にいるが故に、周囲に小さな誤解が積み重なっていく様子が、おバカなくせに悶々として日々を生きていた小学校~中学校の頃を思い出すからなのかも知れない。

2007年08月24日

鹿男あをによし / 万城目学




★★★★★
剣道・デジカメ・しゃべる鹿

女子高の臨時教員として初めてやって来た奈良でいきなりしゃべる鹿に「運び番」を押し付けられ、厭々ながらも役目を果たすことになった主人公。

しゃべる鹿だけではなく、校章の鹿・狐・鼠、姉妹校との三校対抗戦、鏡に映る自分の姿など、ぶっ飛んだ設定と言ってしまえばそれまでだが、それにもかかわらず、平城京・平安京・難波宮(なみわのみや)そしてそれ以前の古の史実が絡んでいたり、近鉄電車を含んだ奈良県内と京都市内の街のディテールがしっかり書き込まれているおかげで、何故か「ああ、こんなことがあっても可笑しくないな」といったある一定のアクチュアリティを感じながら読むことが出来た。

主人公の視点だと一部しか見えず、ストーリーと全く関係無いと思っていた様々な事が繋がっていくさまは、まるで理数系な感じの推理小説を思わせ、ストーリー作りの巧さを感じた。そして、もし映像化するとしたら実写ではなくアニメーション映画が妥当だろうなと思いながら、自分の脳内でその画を描き続けていた。また、「堀田イト」という名前の女子高生や、1,800年間この世界を見続け、高いプライドを持つ鹿の好物がポッキーであるという人物(?)設定もなかなか巧い。

ちなみに、ネタバレになってしまうので詳しい事は書かないが、本書を読む時に難波宮の所在地が分かったのは1961年であることを頭に入れておこう。

2007年08月19日

ハナシにならん! 笑酔亭梅寿謎解噺2 / 田中啓文

★★★★★
守破離の世界

前作の、師匠の梅寿を筆頭に理不尽でむちゃむちゃな登場人物の中で、内弟子で元不良の竜二が殺人事件や誘拐騒ぎといった謎解き中心のストーリーを展開する内容から一転、竜二自身が落語という、長年の間に築き上げられ、かなりの昔に完成に近付いたものに対し、『面白い』と感じる一方で、伝統に執着して何もする事が出来ない現状に閉塞感を感じてもがき続けている姿が中心に描かれている。まさに、『守破離』をそのまま体現している感じである。
それにより上方落語のことは良く分からないが、前作以上に物語に対するアクチュアリティがあると感じたので前作は★★★★☆を付けましたが、今作は★★★★★です。

2007年08月15日

ハナシがちがう! 笑酔亭梅寿謎解噺 / 田中啓文

★★★★☆
上方落語入門の書としてどうぞ

あまりのワルぶりに、『矯正』の為に無理矢理、破天荒で、あたりかまわず鉄拳を入れまくる師匠のもとに入門する羽目になってしまった主人公竜二を中心に、一話完結で上方落語の演目にまつわるストーリーが展開されるという、いわゆる『タイガー &ドラゴン』方式ではあるが、そこに楽屋や高座でのトラブルから殺人・誘拐までを扱ったミステリーを折り込む事により、主人公の単なる成長物語としてだけではなく、物語に起伏を富ませている。
また、上方落語、ひいては落語そのものを知らなくても、読み終える頃には頭に噺が入るかと思うので、『時うどん』≒『時そば』、『たいらばやし』≒『ひらばやし』といった、上方落語と江戸落語との対比をしてみても面白いかも知れない。

主人公・竜二は稀代のワルだったという設定だが、入門直後からは古典落語の面白さに少しずつのめりこんでいき、挙句の果てには、自分が解いた事件の真相を語る際、敢えて師匠である笑酔亭梅寿に花を持たせる姿は一見、『名探偵コナン』における、眠らせた毛利小五郎を利用して犯人を追い込む江戸川コナンを連想させるが、本当のところは竜二自身が僅かの間に丸くなり、つつましさを身に付けた結果である。出来れば、入門直後に彼が急に『ある程度の大人』になったプロセスをもう少し描いて欲しかったと個人的には思っています。

2007年08月13日

Z式マスター エクセル2007 関数編 ウィンドウズ版 / アスキー書籍編集部

★★★★★
初心者以上マクロ未満

超初心者向けと、中級者以上を対象にしたものばかりの従来の解説書と異なり、『SUM』位は使えるようになったり、書式の設定の変更が出来る様になってきた、『初心者』を脱しつつある人に向けた、関数に限定した解説書。
目次にざっと目を通すだけで、自分がやりたい作業がある場合、どの関数がそれに適しているかをすぐに見つけ出せるように工夫されているつくりになっている。一般的なオフィスワーカーであればこの内容さえ把握できてさえいれば取り敢えず大丈夫かと思います。
また、ご存知かと思いますが、念のため、Excel2007とは銘打っていますが、関数に関してはほぼ旧ヴァージョンも同じですので、2000や2002(Office xp)ユーザーにもおすすめの一冊です。

2007年08月09日

ビア・ボーイ / 吉村喜彦

★★★★☆
居場所は自分で作るもの

洋酒メーカー宣伝部で数々の広告を作ってきた男が『左遷』させられ、セールスが良くない広島支社の営業として奮闘する話。あらすじは他のレビュアーさんに任せるとして、自分がこの作品を読んで感じたのは、どんな環境であっても、畑違いなことであっても、自分にしか出来ないことや、テーマは必ずある筈だということだ。
それがたとえ不本意なものであったとしてもその場所で腐るのか、勉強の一つと捕らえて取り組むのとでは雲泥の差がある。見切るかどうかは真剣に取り組んだ後からでも決して遅くは無い。でも、そこまでのモチベーションを作り出していくのって、結構大変なんだよなぁ…。
業種は違えど、また、左遷ではなかったが、新規事業という一から立ち上げなくてはいけない仕事をすることとなり、分からないなりにもあちこち駆け回り、遅くまでキーボードを叩いていた自分自身の姿と少し重なっているような気がしました。

でも、後半の宮島のシーンは良い意味でも悪い意味でも(これは本書を読めば真意が分かるかと)安っぽい20年前の日本映画(タイトルは敢えて伏せよう)を観ている様な感じがしたのは何故だろう?

2007年08月07日

ねにもつタイプ / 岸本佐知子

★★★★★
脳内翻訳

文章を読み始めると、どこからが本当で、どこまでがフィクション或いはナチュラル・ハイな状態で何かが分泌された時に書かれたのかは良く分からないが、作者の言わんとしている事は分からなくはない。何故なら種類は違えど、良く似た(だけども種類は違う)シチュエーションに陥った経験が自分自身の身にも降りかかっていたことがあるからだ。

『帰りの通学路でスーパーマリオみたいにクリボーを踏むようにマンホールを踏み、ノコノコを蹴るが如く空き缶を蹴り、ジャンプして駐車禁止の標識タッチし、1UPキノコを出す』
『電車でたまたま乗り合わせた見知らぬ他人を見て、その人の人生やプロフィールを勝手に想像してみる』
『女性アーティストの作った楽曲が、自身の体験によるものなのか、想像なのかを考えてみる』
『原付で信号待ちしている時に、後ろから急いだ様子の舘ひろしが警察手帳を見せながら原付を奪い取ってきたらどうしよう…と考える』
『数ヶ月に1回の割合で、自分だけハンバーガーの割引クーポンが貰えなかったり、修学旅行のグループ分けに情けで入れてもらったと言った程度のちょっとした嫌な思い出を思い出すと両足をバタバタしてしまう。』
といったことを考えてしまう(或いは考えてしまった)人なら間違いなく買い。

しかも、自分自身ではちゃんと理解しているのだけれど、他の人に説明するのにはちょっと勇気が必要だったり、説明が難しかったりする内容を、よくこのように言葉、ひいては文章という、一次元的なものに置き換えるのが出来たものだなぁと感心することしきりであり、翻訳家である作者ならではの文章である。
決して100人中90人近くが共感するような内容ではないが、この本に関しては別に読者100人中4~5人しか共感しなくても良いのだ。世の中には色々な人がいると言う事を再認識する事が出来たのならば。むしろそんな事は別に関係無いのだと思う。

2007年07月23日

MCSE/MCSAスキルチェック問題集 Microsoft WindowsXP Professional / Kurt Dillard・Anthony Northrup・NRIラーニングネットワーク(翻訳)

★★★★☆
数をこなすのに最適

あくまである程度試験に関する知識を得た人のための問題集であり、何も知らない人がいきなり取り組む問題集ではありませんが、問題数をこなすことによって自分の到達度を知る事が出来るかと思いますので、解答欄の解説文をある程度理解する事が出来る様になる試験勉強中盤には適した本だと思います。

実際のレベルよりも問題の難易度が簡単に設定されているものの、添付のCD-ROMによって提供されている模擬試験をする事によって、どのような雰囲気で試験が進んでいくのかが分かるので、試験会場で慌てる事は無いと思いますし、気持ち的にも安心できるでしょう。

ただ、この本が全ての試験範囲を網羅しているわけではないので、黒本・赤本といった70-270に関する他の参考書・問題集を買って学習することをお勧めします。

2007年07月22日

MCSE教科書 WindowsXP Professional / Dan Balter・Derek Melber・トップスタジオ(訳)・NRIラーニングネットワーク(監修)

★★★★☆
70-270受験のリファレンスに

受験する人間の身にすれば、思わず気分が滅入ってしまう分厚さなのだが、いわゆる「黒本」を同時に購入し、そこで分からない部分が発生したら辞書代わりに使うという使い方から始めれば、スッと入っていけると思います。
ちなみにそのやり方で進める際は、ほんの少しでも分からないことがあったら面倒臭がらずにちゃんと調べたり、学習することが最大のコツである。
実際にWindows XP ProfessionalがインストールされたPCを用意し、実際に掲載されている機能を使いながら読み進めていけば、知っているようで知らなかったWindows XP Professionalに関する知識を得ることが出来るでしょう。

徹底攻略 MCSE問題集 [70-270]対応 Windows XP Professional編 / 伊藤 将人・福田 真紀子・山本 晃・ソキウス・ジャパン

★★★★★
70-270受験に必須!!

この試験を受けるにあたり、いわゆる「赤本」および「青本(Microsoft Press)」と並んで用意しておきたい問題集。いや、試験を受けるにあたり一番最初に手を付けて貰いたい問題集と言っても過言では無い。何故なら、「赤本」や「青本」の実物を見て頂ければ良く分かるが、あまりにも本が分厚すぎ、受験勉強を始める前から気が滅入ってしまうのと、この問題集がSP2に対応しているからだ。
一番良い勉強法は、この問題集の問題をひたすら解き、暗記ではなく、用語の一つ一つの意味をしっかり理解することである。勿論、中には意味の分からない単語は出てくるだろうが、「赤本」や「青本」、そしてWeb上の「マイクロソフト単語帳」などをリファレンス代わりにすれば、何とかなるものかと。
但し、赤本には詳細な説明が、青本にもこの本以上の問題数および、実際の試験に似せた試験問題CD-ROMが付いているので、いずれにしろ黒・青・赤3冊が必要。
また、試験の傾向として、この問題集でも網羅していない応用問題も出てくるのでくれぐれもご注意を。

2007年06月29日

シー・ラブズ・ユー 東京バンドワゴン / 小路幸也

★★★★★
スラップスティック状態?

「東京バンドワゴン」という明治時代創業の珍奇な名前の古書店兼カフェを舞台にした物語の第二弾。 登場人物は前作よりも更に増えてはいるが、前作同様故人(曾祖母)語り部にすることによって、ストーリーを特定の登場人物の目線に偏ったものにしない、中立的な視点で物語を展開することができるだけではなく、それぞれの登場人物に均等に目を配ることが出来、読者に混乱をきたさない工夫がなされている。
前作は春夏秋冬各一話完結、今作は冬春夏秋各一話完結で合計八話。ネタバレになるので詳しい内容には敢えて触れないが、本作の終盤に幾つもの伏線を埋め込んでいるので、更なる続編があるという事を示唆しているのでしょうか? 次回作も同様のスタイルで描かれるとしたら、合計十二話でテレビドラマ1クール分のエピソードが溜まることになる。もしかしたら、狙っているのか? また、続編にありがちな『以前の設定の一部は無かった事にする』という真似をしていないので、裏設定(本文には登場しない、登場人物や大道具・小道具に関するディテール)をしっかり決めてから書き上げたか、最初から続編を書き上げるつもりでいたものと思われます。

2007年06月22日

東京バンドワゴン / 小路幸也

★★★★★
泣いて笑って喧嘩して、どっこい生きてる。

「東京バンドワゴン」という明治時代創業の珍奇な名前の古書店兼カフェを舞台にした四世代の九人家族とその取り巻きの日常を描いた作品。登場人物が多すぎるのは普通は読み手が混乱をきたしてしまうものなのだが、登場人物の個性が非常に強いのでその心配は無い。読み進めていくうちに、これは『寺内貫太郎一家』や『サザエさん』、或いは『時間ですよ』などといった、ホームドラマ(的な)作品へのオマージュではないか?と思っていたら、最後の謝辞に『あの頃、たくさんの涙と笑いをお茶の間に届けてくれたテレビドラマへ。』とあったので、やはり、作者も頭の中で映像化されたものを文字に起こしていく様に書き上げたのだなと思った。1クール(3ヶ月)であれば映像化も出来るのでははないか?と個人的には思うのだがどうだろう。

2007年06月15日

風が強く吹いている / 三浦しをん

★★★★★
素人集団・箱根を攻める!!

高校の頃、陸上しか知らないまま陸上から去り、大学で陸上の素人集団を4年生の清瀬(通称ハイジ)とともに率いて箱根駅伝を目指す羽目になってしまった主人公、蔵原走(かける)。最初は素人たちの不甲斐なさに愕然としたり、いらいらしたりするものの、自分の中では当たり前であったことが必ずしも普通であるとは限らないところに気付いていくことによって、走の成長を垣間見ることが出来る。そして、走ることに限らず、何事でも何故、自分はこれをしようとするのか?という問いに明確な答えが無くては、モチベーションはとても維持できないと言うことにも。たとえその答えが『女にモテたい』とか、『金持ちになりたい』といった、世間的には『不純』な動機であったとしても、それは立派な動機なのだ。
また、この話は走(かける)だけが主人公ではなく、襷を繋ぐ10人それぞれの視点から物語が描かれており、それぞれがそれぞれの理由で走り、やがてそれが化学反応をするようにレース展開が進んでいくさまが良い。現実の箱根駅伝ではありえない設定であると言ってしまえばそれまでなのだが、それを超えたアクチュアリティ(現実感)を感じさせてくれるので、あまり気にはならない。

読んでいくうちに、1月2日の朝、大手町の読売新聞社前から日比谷通りにかけて、各大学の沢山の応援団やブラスバンドが色とりどりの応援を繰り広るという、いつもは決して見せないオフィス街の姿や、毎年年末の昼間に日本テレビ系列で放送される箱根駅伝記録会のドキュメントで喜怒哀楽の表情を浮かべる大学生たちの様子がつぎつぎ思い浮かびながら、一気に読む事が出来ました。

2007年06月09日

県庁の星 / 桂望実

★★★★☆
自分だったら何が出来る?

人は表向きは平身低頭でも、面従腹背、無意識ながらも自分が行なってきたことが一番正しいと思い、たとえ間違いであったとしてもそれを突き通そうとする。何故なら何だかんだ言っても、問題が先送りになっても、それはそれで今まで何とかやって来れたからだ。それを変えるには、残念ながら本当に追い詰められないと動くことが出来ないし、人はそこまで強い生き物ではない。
一歩間違えれば、時が流れるのをそのままやり過ごしても構わない立場の人間である県庁からやってきた野村。熱意を持って仕事をしても空回りしてしまい、何かを諦めてしまっていたスーパーの裏店長的なパートタイマーの二宮。スーパーの他の面々も『シンプソンズ』や『サウスパーク』の登場人物のように腐っている人たち。この人たちもまた、消防と食品衛生の査察そしてリストラの恐怖に追い詰められるような形で野村や二宮に協力していくという流れに、自分の置かれている状況に関係なく、自分の動きや考え次第で何とでもなるのだということを改めて感じさせられた一冊だった。

ただ、小節によって野村と二宮の目線が変わるのは一向に構わないのだが、同じ登場人物を苗字で呼ぶのか名前で呼ぶのかでの統一が取られていないので、少し混乱してしまったので星0.5減点なのだが、四捨五入で1つ減点。

2007年06月05日

夕子ちゃんの近道 / 長嶋有

★★★★★
人生の止まり木的存在

これは主人公がアンティークショップ『フラココ屋』で過ごした数ヶ月を描いたお話。
話の中では主人公の過去やプロフィールの詳細には大きく触れていないが、何かに挫折をしたり、疲れてしまって『フラココ屋』に辿り着いたことが窺い知れる部分がいくつかあり、周りの素敵な人たち(悪人は一切出てこない)との近すぎず遠すぎずのふれ合いで、彼らが少しずつ変わっていく姿を描いている。
基本的には物語は静かに進行していくが、ちょっと気を抜くと見逃してしまいそうな日常の中の出来事、そしてそれにどんな感情を抱き、どんな話をし、どう動いたか?を、一歩間違えれば冗長になりそうな話を巧く描いているので、退屈する事無く読み切ることが出来た。

最終章の『パリでの全員』は、有っても無くてもこの話は成立すると言えばするし、中には「蛇足だ。」などと言う人もいるかも知れないが、昔ロンドンとパリを幾度と無く往復していたせいか、東駅から北駅へ、重い荷物を持って長い階段を登った事や、櫛型の大きな駅舎、小豆色のタリス、左隣のユーロスターが発着する風景を思い出し、これはこれで良かったと思っています。

2007年06月04日

Movable Typeでつくる! 最強のブログサイト / 小川晃夫

★★★★☆
自分のドメインでブログをつくろう

タイトルにもあるとおり、既存のプロバイダーやポータルサイトが提供するブログに飽き足らず、すっきりしないURLが気に食わない私みたいな人にはうってつけの指南書である。
一から順を追っていけば、基本的なHTMLが分かる人ならある程度形になるものが出来るような仕組みになっているし、基本的な設定はこの一冊で事が足りる仕組みになっている。
ただ、スタイルシートやテンプレートが入ったCD-ROMが入っていれば尚良かったので星1つ減点。

2007年06月03日

鴨川ホルモー / 万城目学

★★★★☆
八百万(やおよろず)の神の暇潰し?

『ホルモー』なる競技で京都大学・京都産業大学・龍谷大学・立命館大学がリーグ戦を展開するお話(途中で主人公から端を発してトーナメント戦になってしまうが)。
吉田戦車の漫画『伝染るんです』で、「カブトムシさいとう」が大学入学後に入部する『タオル部』なる部でタオル(という名のスポーツ)に取り組む姿にも通じる、傍から見たら下らない事を何だかんだ言って真面目に取り組んでいる姿は何とも可笑しい。
しかし、話が進むにしたがって、一応主人公たちの"経験値"に連動し、『ホルモー』の詳細が分かってくる仕組みにはなって来るが、何故「宵山協定」が存在するのかの説明が無い等、時間軸に沿って表面をなぞっただけで、肝心の背景の描き方が少し浅く思えた。
ただ、アイディアそのものは良いと思うので、作者の中で世界観を確立させることが出来れば、例えば、京都大学で発動された十七条に翻弄される立命館大学の学生を描くスピンオフ等は描きやすい作品ではあると思う。
また、文章ではなく、映像を前面に推したアニメーション(自分の中でのイメージはスタジオジブリのタッチ)、或いは実写にすれば面白いものが出来るかも知れない。

京都の地理に明るくない人は、「Google Maps」を開いたPCを用意して読むことをおすすめする。

2007年05月29日

夜は短し歩けよ乙女 / 森見登美彦

★★★★★
こんな女の人、キライじゃない♪

夜の先斗町界隈、古本市、学園祭と、『僕』のもう少しで好きな彼女に邂逅出来そうで出来ないと言うシチュエーションと、『彼女』の天真爛漫なキャラクターと行動が、程度の差はあれ、個性が強く珍奇な脇役たちのパーソナリティが絡み合うことでバタフライ・エフェクトの如く巻き起こす騒動を非常に巧みに描いている。おそらく作者はしっかりプロットを練り、表に出る事の無い裏設定をちゃんと作っているのだろう。そのおかげで一歩間違えれば矛盾に満ちてしまう可能性を一切排除してあるところはさすがである。

2007年05月17日

蝶のゆくえ / 橋本治

★★★★★
喉元でグッと飲み込む感情
『ふらんだーすの犬』では、普通の社会生活を送りたいと思いながらも小さな失敗から端を発し、小さな『負』の積み重ねの連続によって雪ダルマ式に大きくなった挙句に自分の子供を瀕死の状態にまで虐待および育児放棄してしまう母親を巧みに描いており、形は違えど一歩間違えれば自分も堕ちるところまで堕ちてしまうんじゃないか?という『漫画「ナニワ金融道」に登場する債権者』のような感覚、それと同時に、センセーショナルに報じられる動機不明の犯罪はこの様に出来上がっていくのだろうか?と思わせる。もっと言えばホラーではない恐怖感を感じる。

2007年05月08日

はじめる!楽しむ!ポッドキャスティング! / JJ

★★★★★
取り敢えず『配信』

xml等の知識が分からなくても(多少のHTML知識は要るが)、取り敢えず音声によるポッドキャスティングの配信をするならこの一冊で十分に事が足りる。いや、もしかしたら既にリスナーとしてポッドキャスティングに触れているのであれば、本の後半から読み進めていけば良いだろう。
そのうち欲が出てきて、サウンドステッカー(ジングル)やBGMを作りたくなったり、凝った映像の配信をしたくなったらそれにまつわる事に特化した本と組み合わせれば良いし。

2007年04月24日

パーク・ライフ / 吉田修一

★★★★☆
日常生活の中の非日常

「パーク・ライフ」に関し、ストーリーそのものは大きな起伏がある訳ではないのだが、日常生活の中に散りばめられた小さな非日常、自分のアパートがありながら半別居状態でマンションを空けている先輩夫婦の家で寝泊りする主人公、偶然主人公が話し掛け、スターバックスのカフェモカを公園で飲む間柄になった年上の女性、特に大きな理由も無く、CCDカムをミニチュアの気球に取り付けて空に飛ばす老人の姿などが作品の随所に散りばめられており、その舞台として日比谷公園を中心とした銀座・日比谷・有楽町界隈があてがわれている。そういう意味では読み手によっては退屈な作品なのかも知れない。『あるあるネタ』が好きな人なら。
後半に収録されている「flowers」は若妻のアングラ劇団への入団を機に、九州から上京して飲料水のルートセールスの職に就いた男が、巨根で頭の悪い先輩と上司が別の同僚の奥さんの間男だったり、上司が自分に奥さんを寝取られた部下をなじったりするなど、職場内の人間関係に巻き込まれる姿を描いている。
以上の2作品や『最後の息子』にも共通する、『日常の中の非日常』が巧く描かれているが、劇的なストーリー展開がある訳ではないので、その辺に関しては期待はしないほうが良い。もっとも、その部分は個人の好みによるのだが。

2007年04月10日

最後の息子 / 吉田修一

★★★★☆
自分と重なる

作者の出身地である長崎が登場する中篇3作品を収録したもの。基本的には3作品とも長崎或いは東京で、若干のイレギュラーが混ざった日常生活を描いたものなのだが、『最後の息子』は、首都圏に長いこと住んでいてもそうそう「動いているオカマさん」に遭遇することも無いので、「オカマのヒモ」がどんな感じなのかは良く分からず、それなりに面白く読み進める事は出来はしたが、残念ながらあまり自分の中では残っていない。
『破片』については、倉庫を改造し、ガラスを埋め込んだ通路が全国ネットで紹介されるように、基本的には何かに熱中するのは良い事なのだが、相手に若干迷惑がられながらも「自分がいなければあの人はダメなんだ。」と思い込んで自分より年上のスナックの女性に入れあげるさまは、誰かのことを好きになるということの危うさについて色々考えさせられた。
『Water』に関しては、主人公の、水泳部の仲間との友情・切磋琢磨・麻雀等を通じ、薄いながらも思いもがけずエロい感情を抱いてしまった時に、何かが壊れてしまうような気がして「自制している自分」を演じている『童貞紳士』ぶりが、同じ世代だった頃の自分自身と重なってくる感覚が良い。それに、作者自らが監督をしながら映画化されていたことには気付きませんでした。映画に関するレビューはDVDが出てから書きたいと思います。

2007年03月07日

たたかわないダイエット / 丸元淑生

 ★★★★★
食べ続けちゃった理由がここに…

この本は丸元氏と、渡米後の食生活の変化で激太りしてしまった自分の娘との会話形式で『いかに栄養価は低いくせにカロリーが高いものを食べ続けてきたのか?』『食事を摂取しているのに満たされていないのは何故か?』が分かりやすく解説してあり、『何故小生がピザをあのバイクごと食べていたのか?』『何故バファローの踊り食いをやめることが出来なかったのか?』(んっ!?)が理解でき、その上で大きな負担を強いられる事も無く、早速スーパーで大豆や三分づきの米を購入するなどしてこの本に書いてある事を実践する事が出来た。

2007年03月03日

私の手が語る 思想・技術・生き方 / 本田宗一郎

★★★★★
珠玉のエピソードの集合体

 二十年以上前に初版が出たエッセイだが、行動することの大切さ、ごまかしをしないことの重要性、様々な視点で物事を見ることを説き 、この頃から、目的意識を持たないまま教育が行われていることに対する危機感を感じているくだりがあり、今の世の中でも十分通用する 本田宗一郎氏の未来へのメッセージが盛り込まれている。また、一つ一つの章が短く、一話完結のスタイルであり、中学生にも分かる単純 明快な言葉でメッセージを伝えているので、ビジネスマンのみならず学生にも読んで貰いたい本だ。

 また、本田技研工業が発電機を作っている理由やマルク・シャガールとの邂逅のエピソード、アンチゴルフからゴルフ好きに転じた経緯に ついても触れられている。

2007年02月26日

ベートーヴェンの生涯 / ロマン・ロラン 片山敏彦(訳)

★★★★★
何度でも何度でも立ち上がる

ここに書いてある事に限って言うならばベートーヴェンの人生は、子供の頃は親父に金儲けの道具に使われ、甥っ子に目を掛けるものの、裏切られ、その甥が借金で首が回らなくなったり、自殺未遂されたり、うっす~いラブ体験をもとに『交響曲第4番(「のだめカンタービレ」の音大編で使われていたアレ)』を作曲するも、その直後に婚約破棄となったり、貴族からウィーン居住のみを条件にスポンサーの申し出を受けるもいつの間にかその約束も反故にされたり、一躍時の人になったかと思いきや、ブームが去ると相手にもされなくなったり、『交響曲第9番』で復活を印象付けるも公演の利益殆ど無かったり、挙句の果てには慢性の難聴と下痢に苛まれていたと、見事なまでに『特急列車には乗れるんだけど接続が悪くて目的地までの時間が異様に掛かる』程の運の悪さは昼メロ並みの不幸街道まっしぐらなストーリーを彷彿とさせ、まさに音楽以外では不器用そのものだったことが伺える。

  それでも、音楽に対するモチベーションを失わず、前に進む力はどこから湧き上がって来たのだろう?先述の『交響曲第4番』は付き合っている女性の存在があってこそだろうが、他の殆どの作品は生活の為か、負のパワーのいずれかで見事に作品に変換しているのだ。それを考えれば、今の自分の立場の方が彼よりもだいぶ恵まれており、今の自分に何が出来るか考え、実行する事が彼よりも容易く出来るような気がするのだ。

2007年02月22日

しゃべれども しゃべれども / 佐藤多佳子

 ★★★★★
無い自信を付けるには?

基本的には二つ目の落語家・今昔亭三つ葉を主人公にした人間模様なのだが、あるきっかけで『話し方』を会得する為に主人公から『まんじゅうこわい』を習う事になった一癖も二癖もある登場人物たちを描いている。

  • 緊張するとイップスになってしまい、吃音が出てしまうテニスコーチの従弟
  • 性格の取っ付きは悪く、いまいち素直になれない女
  • 勝ち気で自分たちの世界で戦う(決して『いじめ』とは認めない)関西弁を操る子供
  • 現役時代はヒール役で代打の切り札だったが、舌足らずで解説もろくに出来ない元プロ野球選手

彼等4人に共通しているのは『自分が本当に手に入れたいものが手に入っていない』ということだ。それに教わっている彼らだけではなく、三つ葉自身も高座の時は無意識でも語る事が出来るのに、柄にも無く自分が好きな人に思いを打ち明けることが出来なくて悩んでいる姿が切ないながらも何だか可愛らしい。

他人には何でも無い事でも、本人にとっては大問題で、そんな事を互いに思っているさまが滑稽に見えるが、自信をつけるとはどういうことか?自信をつけるにはどうすればいいか?と言う事を考えさせられる。

ちなみに原作では三つ葉が挑む師匠の十八番は『茶の湯』なのに、映画の公式サイトでは『火焔太鼓』になっているのが気になるけれど…。

2007年02月12日

強運の持ち主 / 瀬尾まいこ

★★★★★
易者という名のコンサルタント

占い師に次々に自分の事を言い当てられて驚く人がいるが、実はその前に占われる側が占い師にかなりの情報を引き出されているか、よくよく考えると誰にでも当てはまりそうな事を言っていたりしている事が多い。

本文の中でも、主人公のルイーズ吉田(本名:幸子)が『20分\3,000の占いに金を出すのではなく、姓名判断や四柱推命の本を買って読んだ方がよっぽど良いのに…』という旨のくだりがあるが、たとえ占いの結果が同じだったとしても何万人、下手したら百万人以上の人々に向けて書かれた本よりも、自分ひとりだけに語って貰う事の方が格段に信憑性が高く感じる(あくまで『感じる』)のだろうし、易者は全くの第三者なので客観的にモノを見る事が出来るので頼る人がいるのだという事に気付かされる。

占いというのは自分自身の願望を叶えるためと言うより、自分の中にある不安を取り除くためにあるのだと思う。だから私は今日も『めざましテレビ』の6時59分の占いを観てしまうのだろう。

(12/February/2007) 

バスジャック / 三崎亜記

★★★★★
論理的な不条理

『町内会で指示された二階扉の取り付け』『バスジャックブーム』『禅問答のような恋人との会話』などといった、ふざけた、或いはぶっ飛んだ設定が大真面目に、且つ淡々と進行していく、『となり町戦争』『失われた町』でも見せてくれた面白さを本作でも堪能することが出来る三崎亜記の短編集。

ありえない設定だと分かっていながらアクチュアリティを感じるのは作者の技量だろう。手軽に『それはそれ』と割り切って楽しむ事が出来る人なら◎。『送りの夏』は、子供の頃の夏の日の情景が自分の脳内にうまく広げさせてくれる非常に秀逸な作品。

(12/February/2007) 

2006年12月11日

シールド(盾) / 村上龍

★★★★★
子供にも読んで欲しい一冊

 個人的な事だが、小学生の頃『良い本を読みましょう』というスローガンがあったのだが『良い本』の基準が分からず、読書感想文用の本選びに困った事があった。

 『頭が良いか悪いかというのは一つの基準に過ぎず、それを決める事に意味は無い』『からだの中心にある大切なものを守る「盾」が必要』などと言う『名なしの老人』の話は本質を突いており、『良い本』とは先生や大人が考えた勝手な基準にしか過ぎないと自分自身、ハッとさせられる。心の中が支配されると、アイデンティティが失われ、自分が自分でなくなってしまうという警告を発しているのだろう。そのために「盾」は存在しているのだと。

 また、違う形で栄光と挫折を味わう主人公のコジマとキジマの半生が、自分自身の一部を投影している部分があり、二人が共通して直面した「盾」が崩壊した時、どうやって新しい「盾」を作ってきたか?のくだりは、自分自身がどう生きるか?という人生のテーマにヒントを与えてくれる。

 出来る事なら子供の頃にこの本に出逢いたかった。大人だけではなく、小学校高学年あたりから読んでもらいたい。学校の『推薦図書』にはならないだろうけど。

(11/December/2006)

2006年12月04日

どーなつ / 北野勇作

★★★★☆
不思議且つちょっと怖かったり…

装丁のかわいらしいイラストに惹かれ『ジャケ買い』してしまったが、『電気熊』を通した他人の記憶との同化であったり、『アメフラシ』を使って火星に人が住める様な仕込みをしたり、見えない敵と戦っているのかいないのか分からなくなったりするなど、今迄の概念が全く通用しないサイケデリックな世界観の中であらゆる伏線が入り混じり物語が進行していく。かと言ってよくある不条理モノに落ち着かないのがこの作品の良いところ。

 自分の理解力が足りないのか、それとも話そのものが難しいのかは分からないが、最低でも2回は読んだ方が良いかと思われます。

 『○子の部屋』の黒○徹子のウィッグの中には宇宙人が棲みついていると信じて疑わない人は買い。

(04/December/2006)

Adobe GoLive6.0 マスターブック- / 樋口泰行

★★★★★
まずこれだけ押さえよう

ここに書いてあることを押さえておけば、GoLive6.0におけるホームページ製作に必要な基本的な技術を会得するすることが出来、プリントスクリーンの画面を多用した説明も非常に親切であるため、この本を片手にホームページを作れば、『使ってみたいけど作り方が分からない機能』を自分のものにすることが出来るだろう。

必要な技を知りたいときも索引を見れば比較的簡単に見つかるのでリファレンスとしても重宝する。

また、基本的に初級~中級向けの本なので、ここに書いてあることが理解できるようになったら内容に飽き足りなくなるかと思うので、GoLive中上級者以上は更に上のレベルの本の購入をお勧めする。

(04/December/2006)

2006年11月09日

君たちに明日はない / 垣根涼介

★★★★☆
非情になりきれず…

『リストラ請負人』である主人公を軸に、『切られていく人達』の悲喜交々が一話完結の連ドラの如く進行していく。主人公はリストラ請負人でありながら 100%非情になりきれず、能力がありながら一度リストラの対象となった後、会社の姿勢に疑問を抱きながらこの先のことを考える女性と情を交わすようになったり、オタク開発者に翻弄されたり、リストラする側とされる側で再会した嘗ての同級生に悩んだりと幅の広いエピソードが盛られているところから、登場人物の設定は練りに練られている。また、結果がどうであれ、リストラの対象になった人たちは前へ進もうとする姿がすがすがしい。
(09/November/2006)

運命を拓く-天風瞑想録- / 中村天風

★★★★☆
人生に不器用な人たちへ

『物事がうまくいかない』『気力が出ない』『何をどうすれば良いのか分からない』等、、この本は『問題は分かっているけれど、解決策が分からない』或いは『うまく行かない事が多いが、何が問題かが分からない。』という人に前へ進む為のヒントを与えてくれる。最初は何が書いてあるか良く分からなくても、3回は読み返し、書いてある事の一部でも実行してみよう。自分の中でほんの少しでも何かが変わるはず。
(09/November/2006)

2006年10月06日

17歳のヒットパレード(B面) / 伊藤たかみ

★★★★☆
無意識・無防備・無鉄砲

 舞台は日本のような、日本じゃないような風景。例えるなら田舎者(失礼!!)が思い描く湘南の様な(あくまで『様な』)風景の中でロードムービーの如く繰り広げられる、意図せざるところで知らず知らず破滅への道をたどる若い二人。十代の時に陥る、まるでこれからの人生が見えてしまったかのような錯覚。いい大人となってしまった今となっては無茶なことこの上ないのだが、十代、しかも前半にこの本に出逢っていたとしたら主人公の二人に一種の憧れを持ったかもしれない。

 長い話ではないので、小1時間電車に乗って読むなら買い。
(06/October/2006)

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